その他1

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財前光



「………ぁ、」



ふとあの人を見かけた。

大好きだった人。
大好きな人。

大切だった人。
大切な人。


どれも当て嵌まるけれど、私は今でも彼を愛している。

愛していた、じゃなくて、
現在進行形で愛しているんだ。


でも彼にとって私はもうどうでもいい存在。

言ってしまえば、彼にはもう大切な人が居るから、


彼の隣には私じゃない誰かが並ぶ。

あの特等席は、私だけのもの、だった、はず……なのに……



「光…………、」



もうこの声は届かなくて、
この想いは届かなくて、



嫌だ嫌だ嫌だ。

こんなに好いてるの、
こんなに愛してるの、


何が足りないの?
何が足りなかったの?



自分の心と、届くことのないとわかってる儚い想いに問い掛けるけど、答えは―――返ってこない。



―――わかってる、わかってるよ。
ちゃんとわかってる。



でもさ、足掻いたっていいじゃないか。


これが私の気持ちじゃないか。


偽るなんて、



出来るわけないじゃないか!



「光っ!!」


『……、彼方…』


「光に、大切な人が居るのは知ってる」



そんなことは、わかりきってる。

叶わないと、届かないと、無意味だとわかってる。



「でも私はまだ……、」



でも無意味だとわかってるからこそ、



「愛してるの、」



出来ることもあるんじゃないのかな、


―――ねぇ。光、



『俺は、もう………彼方を………』


「愛せない、そう言いたいんでしょ?でも、わかってるからっ、ちゃんと諦め、だって、ついてるからっ、光は……今愛すべき人を愛してよ。悔しいなぁ、でもしょうがないかぁ………、光はもう私を見据えてない。わかる、から、さ、」



私は今見せることの出来る精一杯の微笑みを見せて、光の背中を押した。



「バイバイ、光……」



もうこれで最後にしようか、



「あーぁ、神様は意地悪、だなぁっ………」



もし叶わない願いなら、願うことだけなら可能ですか?



出来ることなら、もう一度、

たった一度だけで、
たった一瞬だけでいいの。





もう一度愛してください
(願うだけなら、)
(罪になりませんよね)
(それくらい)
(許してくださいよ―――)

(20110223)
 

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