短編2

□私一人がバカみたいだ
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例えば、例えばの話。
大好きな人に振り向いてほしくて毎日毎日話かけて、笑顔振りまいて。
可愛いだなんて言われて自惚れて。
告白しようって決心して。
でも彼には大事な彼女が居て。
結局想いを伝えることも出来ず、彼とはそのまま顔を合わせることも無くなって。

そう、これは例えばの話。

漫画みたいな、偶然ばかりの恋愛話。

―――じゃあもっと偶然が重なれば、こんな恋も現実にあり得ることなんだろうね。









「青峰。あのさっ、青峰は、好きな人とか…居るの?」



唐突な質問。でもずっと前から気になっていた。
正確に言えば、私が青峰を好きになったときから。

私は―――どっちの答えを待ち望んでいるのだろうか。



『あ?んなもん居ねーよ』



青峰の言葉に「そうなんだ」と返す。
居ないと言われて、私は何を感じたのだろう。
逆に居ると言われたら、何を感じるのだろう。

どう感じるのが正しいのか、どう感じたほうが私にとってメリットなのか、今全てが混乱している。



「私は、その言葉を聞いて、どう感じるのが正しいんだろう……」


『は?意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ』


「意味わかんないことなんかじゃなくて、青峰に好きな人が居て嬉しいのか、悲しいのか、どう感じていいのかわからないんだけど、何が正しいんだろうね」


『正しいもなにも、何も感じなかったんだからそうなんだろ。嬉しいも悲しいもねぇんじゃねぇの?』



青峰の意見に「なるほど…」と納得し、何度も頷く。

そんな私を見てなのか、青峰は少し口を緩ませ微笑む。



「……どうしたの?」


『いや、お前意外と可愛いとこあんだな』


「っ!なっ、何言ってんの!?ば、馬鹿じゃないの!?」



青峰から発せられた言葉が突然すぎて、動揺を隠すことが出来ない。

そんな私は今、どんな顔をしているのだろう………。

それはきっと、青峰にしかわからないけれど、



「(そんなこと言われたら、自惚れちゃうじゃん…)」



青峰は何を考えて、そんなこと言えるんだろうね。

期待させるようなことばっかり―――。









もしも私が、青峰にこの想いを伝えることが出来たなら、どんなに楽だろう―――?

今の私にそんな勇気はない。だけど、それ相応の覚悟はある。

だから私は―――覚悟を決めた。



「青みっ………ね………」



声をかけようとした。
でも視界に入るのは、青峰じゃない。
今まで見たことのないような顔をした青峰と、……彼女。

一番見たくないと思っていた光景。

青峰は私の見たことのない顔をして、慣れた手つきで彼女の艶やかな髪を指に絡めキスをする。
舌を絡めて、深い深い濃厚なキス。

微かに聞こえる声に私は耳を塞ぎ、その場から逃げ出した。



「………はぁ、っはぁ…」



覚悟を決めたって意味なかった。
一人で自惚れてた。

好きな人が居ないなんて言ったのも、可愛いなんて言ったのも、全部嘘だったんだね。

青峰の一言一言が、私の宝物だった。
一つ一つの行動が、嬉しかった。

あの時、私はどんな顔をしていたのだろう…?
青峰はどう思ったのだろう…?
―――私の想いは、何で伝わらなかったのだろう…?


声にならない声を、私は吐き出した。





私一人がバカみたいだ
(貴方は最初から)
(私を見てはくれなかったのね)

(20110430)

お題提供:はちみつトースト
 

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