短編2

□嫌いになれたらどんなに楽だろう
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簡単なことだった。ただアナタを諦めればいい。ただそれだけの話。でも、アナタがそれを許してくれないの。いくら嫌いと思っても、いくら諦めようと思っても、アナタは私を深くまで溺れさせるから、私はアナタから逃れられない。でもアナタは私を見てはくれないのね。なんて意地悪なんだろう。期待なんて、させないでほしい。期待すればするほど、傷つくのは私なの。―――アナタは何も考えてない。



「私ね、いろいろ考えたの。テツヤ君に大切な人が居るのは知ってるし、私がそういう立場になりたいだなんて図々しいこと考えてるわけでもない」


『はあ……』



テツヤ君は何を言っているんだろうといった表情で、顔をしかめながらも納得するような口調でそう言った。それに私は気にすることもなく、淡々と話す。



「ただね、私もテツヤ君のこと、好きなのよ。勿論、恋愛感情でね。でも、それ以上に大嫌いなの」



冷たい言葉がそこらに突き刺さる音がした。それは氷のように固く、何かが割れる音。
私達の仲を切り裂く音。



『……あの、なんと反応したらいいのか、わからないですけど、その言葉が本当なら、好きと言われて嬉しいなと感じたし、嫌いと言われて悲しいなとも感じました。聞きますけど、なんで…嫌いなんですか?僕のこと』



あくまで冷静な彼を見て、何故だか自然と笑みが浮かんだ。でも、へんになんでなんでと聞かれるよりもよかったのかもしれない。でも逆に冷静すぎて、悲しくなった。



「好きだって言って嬉しいって感じてくれるなら、嫌いだって言って悲しいって感じてくれるなら、なんで…なんで私を好きになってくれないの?私はずっとテツヤ君を見てきた。テツヤ君しか見ていなかった。それなのに…」



急に息苦しくなって、言葉が喉につっかえる。
悲しくて悲しくて仕方なかった。テツヤ君が、彼女を大事にしていて、とても優しくて、どんなことがあっても守ってあげてて、きっと彼女からしても自慢の彼氏で、私が二人の関係をとやかく言う権利なんてない。
そんなこと、最初からわかっているから逆に悲しいの。
寂しいの。



「私はテツヤ君のそんな残酷なほど優しくて、残酷なほど最低なところが…大嫌いなの」



涙ながらに言ったって説得力ないですよ。そう言った彼の顔には笑みが浮かんでいた。
そんなテツヤ君の優しさが辛くて、彼の襟元を掴んで頭を押し付けた。

―――テツヤ君を嫌いになることなんて出来ない。きっと、願うことすら出来ない。
だって私は、残酷なほどに彼を愛していました。





嫌いになれたらどんなに楽だろう
(そしたら今の何倍も)
(傷つかなくてすむのにね)

(20110513)

お題提供:はちみつトースト
 

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