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□君との距離
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練習後、順番にシャワーを浴び着替え終わったら部室を出ていく。


校舎横の通路を歩きながら阿部が振り返った。


『おい、水谷今日のへタレバッティングは何だ!』


『阿部こそダッシュ手ぇ抜いていただろ』


『なんだとー!』



まぁ、いつものこと。

阿部はいつもうるさいんだよ。

気にしないもーん。



三橋は後ろをおろおろしながらついてくる。


その後ろを栄口と泉が話をしながら歩いていた。



『あれ?部室のカギ閉めたっけ?ごめん!ちょっと見てくる』


後ろから、聞き慣れた少し高い声。


振り向いたときにはもう栄口は、来た道を走って戻っていった。



『おー』


ぞろぞろとみんな歩きだしたが、俺はその場の校舎の壁に寄り掛かった。


『水谷はここで待ってんのか』


阿部が怪訝そうな顔で聞いてきた。


『うん。そうする〜。先に帰っていいよ』


『…水谷、栄口に変なことすんなよ』


泉がニヤニヤしている。


『すっするわけないだろ!』


見透かされたようで動揺してしまう。


『水谷はへタレだ。そんな勇気はねぇな』


阿部まで突っ込んでくる。


『勇気の問題じゃないだろ!』


『だからヘタレってんだ』


阿部と泉は同時に言った。


『お〜!泉と気が合うなんて珍しいな〜』


『本当だな。このバカ救いようがねぇな!栄口とは別れろ!お前にはもったいない!』


『あれ?ななな…なんのコト?』


『ばかか!バレてないと思ってたのか?』


阿部と泉が見下してくる。


『あわわわわ〜!あっ阿部くんも…泉くんも…落ち…ついて』


『ケッ!三橋!こんなバカほっといて行くぞ!』


『あっ!待って…じゃあ…ね…水谷くん』


そう言うと三橋は二人の後を追っていった。



…そっかぁ。

バレてたんだ…

ま、いっか。



誰に何を言われたってすきなものはしかたがない。


暗い校舎裏から走ってくる足音が聞こえる。



栄口だ。



『やっぱり締め忘れてた。ごめん。待たせちゃって』


『いいよ〜。栄口と二人になれたし』


そういうと恥ずかしそうに栄口はうつむいた。



暗いし…


いいよね…



そっと栄口の指先に触れた。


栄口の少し冷たい指。


指でたどって、きゅっと手を握る。



『帰ろっか』



俺が歩きだすと、手を繋いだまま栄口も歩きだす。
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