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□Y
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昼休み、机で昼寝をしようとしている俺の前の席で、阿部と花井が話をしていた。


話に入る気力もない俺は沈んだ顔でそのまま顔を伏せる。



『そういえばさぁ、田島が言っていたんだけど巣山と沖って、

とうとう付き合い始めたらしいぞ。』



『へぇ。巣山は男前だからなぁ。包容力っての?』



『あぁ、わかるわかる。安心感が違うよな』




…へぇ巣山が沖とねぇ…




『えぇ〜!?巣山がぁ?』



俺はガバッっと起きた。



『あぁ。そうらしいぞ』



花井は俺の勢いに驚いているようだった。





巣山は栄口のそばにいて心の支えになっていると思っていた。



いくら巣山が包容力があっても、沖と付き合い初めたばかりで、栄口のことまで気が回るだろうか。




もしかして栄口は一人なの?



孤独になってさみしい思いをしていない?



居ても立ってもいられず、俺は教室を飛びだした。







向かう先は1組。


息を切らして教室の扉を開け、栄口の姿を探す。


食事を終えた生徒が半分くらい教室にいた。



それぞれ話をしたり昼寝をしたりして休憩時間を過ごしている。



栄口の、今の席すら知らない自分にイヤになる。




いた…





窓側の後ろから3番目。




栄口は教室に入ってきた俺に気付かず、ほつんと一人で、

頬杖をついてぼんやりと外を眺めていた。



ゆっくりと栄口の席に近付き、前のイスを引き寄せ栄口と机を挟んで向き合って座る。




『…水谷…?』




眠いのだろうか。



夢かな…と言うような不思議な表情をしている。




『栄口の席いいね。窓際なんだぁ。何より先生から見えにくい』




『うん』




二人で微笑み合う。



何気ない会話。



幸せな時間が帰ってきたみたいだ。




『巣山は?』




『ん〜、さっき沖と出ていったよ。二人とも真っ赤な顔してた〜』



『お似合いだよね』



栄口は一人でさみしくなかった?




聞きたくなったけど、この穏やかな時間を大切にしたい。



少しでも長く栄口を見つめていたい。



俺の視線を感じたのか、栄口と目が合う。




優しい目。




『水谷の髪…ぽかぽかの光であったかそう。髪…伸びたね』




ふふふと笑う栄口に目を奪われる。



『…栄口は…ちょっと痩せた?』




栄口の白くてやわらかなマシュマロみたいな頬。




つっと自然に手が伸び栄口の頬に触れる。




冷たいかと思ったけど…あったかい…




指先と手のひらで頬を包むように撫でる。





栄口が好きだ…




そのとき、栄口の瞳が大きく揺らめき、ぎゅっと目を瞑った。




しまった!






栄口は両手を机に付き、席を立つと教室を出たとたん、廊下を走りだした。
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