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MIZUTANI side


放課後の練習が終わり、今日も栄口と帰ろうと準備をしていた。


二人になれる大切な時間。

前みたいに簡単に抱き締めたりは出来ないけど、誰よりも近くにいたい気持ちは

強くなるばかりだから…


こういうの…独占欲っていうんだろうな。


たまらないくらい一緒にいたいのに、どうしようもないくらい触れたくて

抱き締めたいのに、めちゃくちゃにしてしまいそうで距離をとる。



栄口が大切すぎて戸惑う。


俺の汚い欲望を押し付けたくない…


毎晩、栄口を想像して一人でしているなんて…



俺は汚い。


汚くてどろどろで、醜くて。



でも、栄口はきれいだから。


そんなことは望んでいないから。




今まで誰か一人に執着したことなんてなかった。


いつだって、みんな大好きでみんなと一緒にいたいって思っていた。


今思えば、それは子どもの感情。


みんなが好きでみんなと一緒、なんて思えない。



栄口は俺の特別。



スペシャルなんだ。





『今日、文化祭の打ち合せするんだろ。水谷のクラス積極的だね』


ロッカーの前でしゃがんでカバンにタオルや着替えを詰め込んでいたら

上から栄口の声がした。



『へ?』



何のこと?と聞こうとしたら、阿部が話に割り込んできた。


『そ〜なんだよ!うちのクラスまだ決まってないんだけど案をまとめるのに

時間がかかっちゃってさぁ。悪いけど先帰ってくれ』


阿部はしゃがんでいる俺の肩に、腕を置き押さえつけてくるので逃げられない。



『じゃあ、頑張ってね』




着替え終わりみんなぞろぞろ出ていく。


振り返ると部誌を書いている花井と腕を組んでいる阿部。



『ぶ…文化祭の打ち合せって…』


何のこと?としどろもどろに聞こうとしたら、ガンッとロッカーの閉まる大きな音。



ゲッ。泉が睨んでる。


『泉がいるってことは打ち合せじゃ…ないよね…』


たらりと冷や汗が流れる。


『たりめぇだろ!クソが』


泉…言葉汚いよ…なんて言える空気じゃないな…


『水谷さ、栄口とまだ付き合ってんだろ?』


花井が部誌から顔を上げて聞いてきた。


『うん』



俺は花井のいる畳のある場所に座った。



『昼メシは一緒に食べてるみたいだしな』


阿部が見下ろしながら言ってくる。



『何だよそれ…』



泉の怒りを含んだ声。


『お前…ろくに目も合わせないくせにメシと行き帰りは一緒なのか?

中途半端なヤツだな。栄口がいつもどんな顔してるか知ってるのか!』


泉がドンと壁を叩く。


『…お節介だと思うけど、見てらんねぇんだよ。栄口が可哀想だ…』



花井が静かな声で言った。


『ちゃんと別れてやった方がいいんじゃないか?水谷のしてることは

優しさじゃない。残酷だ』
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