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□淡く、溶けるように 1(R18)
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『ほんとにいいの?』


『何回目?ソレ?何度も言わせないでよ』


水谷が何度も何度も確認してくるので、だんだん恥ずかしくなってくる。



『ごっ…ごめん』



ちらりと横目で見ると、カチンカチンに緊張しているのかベッドの端に座って下を向いたまま目も合わせようとしない。


もしかしたら実際にオトコの俺と、となると踏み出せないでいるのかも。






『…あのさ…明日、うち誰もいないんだ』



いつもの帰り道、夜も遅くなると人はほとんど通らない閑静な一軒家ばかりの住宅地。


毎日ふたりで、ゆっくりと自転車を押しながら歩く。


最近は夜はキケンとか言ってうちの前まで送ってくれるようになっちゃって。


甘やかされてるよなぁなんて思ってるときに、何の前触れもなく突然に飛び出した言葉。




そういえば、今日はいつもより口数が少なかった。


水谷の顔を見ると、緊張したような強ばった表情で自転車のハンドルをぎゅっと力を入れて握っている。



『だから、明日の練習終わったら…うちに泊まりに来ない?』



『え…と』



どう答えたらいいのか迷っていると、水谷はパッと明るい表情に変わった。


『返事は明日でいいよ。考えといて』



そう言うと自転車に飛び乗って行ってしまった。




それって…



そういう、意味だよな…



かあっと顔が熱くなる



どうしよ…



心の準備がない訳でもない…でも…明日って…



ドキドキする…


水谷もドキドキして誘ってくれたんだろうなと思うと笑ってしまう



なかなか次に進めない…



焦ることではないかもしれないけど、まだ自分が水谷といてもいいのかという不安がつきまとう



ひとつになれば不安がなくなるのかな…



一番近くにいたい…



誰よりも大切な存在…








そう思っていたのは自分だけだったのかな…



昨日のやりとりを思い出し苦笑いをした。





『…やっぱり…やめとこっか…』



気持ちを切り替えたくて、腰掛けていたベッドから立ち上がりカーテンを開けた。


空は真っ暗でキラキラとした細い金色の月が黒い紙に張りついているみたいだ。



『ガラスまで冷たくなってる…』



手のひらを窓ガラスに付けるとひんやりする。



頭を冷やさなきゃ…


水谷はいつだって好きだって言ってくれてたけど…やっぱりこういうのは違うって思ってきたのかな。


もちろん俺も緊張していたし、水谷と自分が…と考えると少なからず恐怖を感じる。


でも、水谷となら…


水谷がこんな俺でも欲しがってくれるなら…そう思っていた。




違ったんだ。



そうじゃなかったんだ。




『…俺なんかじゃ…その気になんないよね…』




ゆらりと視界が歪んだ



ばかみたい…



冷たい窓ガラスに額を付けて、小さな声で呟くと息で白く曇った。



『え!?』



『…も…俺、帰るね…』




なんで、来ちゃったんだろ。



恥ずかしくて、もうこの空間が耐えられない。



『う…わっ!待って!だっ!だめ!ごめん!帰らないで!』




水谷は慌てたように立ち上がると、後ろから抱き締めてきた。


背中がほんわかしてあったかい。



『ごめんね…』



後ろから聞こえる申し訳なさそうな声。



なにの謝罪?



その気にはならなくてごめんねってこと?



やっぱり、ソウイウコトは出来なくてごめんねってこと?




『…も…やだ…』



俺じゃダメだって何度思っただろう…



わかっていたのに。



わかっていたはずなのに。



胸が痛くて苦しい…



苦しくて、息をするのも苦しくて。




視界がゆるゆると歪む。



ばかだ。俺…



来なきゃよかった…





後ろから抱き締められていた腕が緩んで、くるりと向きを変えられるとぽすんと正面から優しく抱き締められた。



『…さかえぐち…ごめん…』



『あやまんな…』



お前のせいじゃない。



お前も俺もオトコなだけ。



お前のせいじゃない。




わかっていても、苦しい。



今すぐにでも、部屋を出てしまいたい。



そう思っているのに。



そう思っているはずなのに。



やっぱり俺は離れられない。



くやしいけど、水谷といたいって思ってしまうんだ…




『顔、見せて…』



うつむいた俺の顔を覗き込もうとするのは、水谷のクセ。



『やだ…見んな…』



ほんとにこんな顔見られたくない。



顎を引いてもっと下を向いた。



『ほんと、ごめん…』



ふわりと頬に水谷のやわらかい髪が当たり、いとも簡単に下からすくい上げるように唇を重ねて上を向かされる。



謝罪なんか聞きたくない。



我慢出来ない涙が今にも零れ落ちてしまいそうだ。
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