頂き物小説
□ずっと一緒だよ4
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「ああ、水面に揺れる朧月のなんと美しいことよ。霧に迷う蝶の如きその儚き佇まいは虚像かそれとも幻か。脆きその形は俺の欠片を震わせる」
ラスティは足を止め、ポケットに手をつっこんだまま、特徴のあるリーゼントを空に向けて、天狼島の静かな海に浮かぶ水蒸気に霞んだ満月を眺めた。
見渡す限りの水平線以外、島影一つなく、通りかかる船さえ無いこの島はまさに孤島。
自分をここに拘束している妖精のように可愛らしい少女は、自分たちが島の外へ出れないよう、結界のような妙な魔法を島に張り巡らせて呑気に「大魔闘演武」なる大会を見物しに行ってしまった。
だがおかげで毎日休むまもなく攻撃を受け続けた身に訪れた束の間の平和。
(砂浜が月夜には光るなんてことも、忘れていたな)
キラキラと細かに光る砂浜にリーゼントの影を落として再び歩き出したラスティはふと足元に目を出した緑の苗木に目を留めた。
(これは…天狼樹の……)
7年前にアズマと共に倒れたはずの天狼樹。
おそらく僅かに残った天狼樹が花をつけ、実をつけ、鳥や虫達によって運ばれた種から再び芽吹いた生命。
(アズマの形見というわけか……)
ラスティはふと感傷的になってその苗木を土ごと手ですくい取り、寝床の代わりになっている湖の畔の木立に戻るとそこにそっと植えつけた。
それが一週間前のこと。
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。
今日はバレンタインデー。
ラスティは愛する守護聖獣を呼び出した。
「愛してるぜ、俺のベルファースト、ベルクーサス」
守護聖獣達はこの日が何の日だが知っているのかいないのかわからないが、いつもの様に自分を抱き締めるラスティに腕を絡めた。
「神に造られしアダムとイブよ」
心休まる至福のひと時。
だが、その時、誰も居ないはずの背後から突然子供の声がした。
「お前…、オタクか?それ、新しいガン○ラかポケ○ンか?」
「ひ、…だ、誰だ!!」
ラスティは飛びあがって叫んだ、そこにいたのは…。
「あ、アズマ!?…つか、ちっちぇーアズマ?」
頭にミニ天狼樹を生やし、ふてぶてしくラスティを見上げているのは、かつての仲間のミニチュア版。
見た目年齢、7歳くらいか。よく見ると腕は枝だし、脚は根として地面にくっついている。
「お、お前…アズマなのか?」
目を見開き、驚きの余り掠れた声で尋ねる。
「よく、生きて……」
思い出が走馬燈のように脳裏を走りぬけ、不覚にも鼻から目頭に向かって熱いものが込み上げてくる。
ミニアズマは考え込みながら首を傾げた。
「わからない。でもおっさんラスティだろ?なんでかわからないけれど、おっさんのことは知っているんだ」
「アズマは倒れたが、前世の記憶が受け継がれているのか?…つか、おっさん言うな!このガキ!」
この美しいオレを捕まえて、こともあろうに「おっさん」だと…?
「なんでだろう、おっさんがキザでナルシストで頭悪いバカだってわかってしまうのは」
顎に指を当てて真剣に考えこむふてぶてしい仕草は、ラスティの知っているアズマそのもの。
ムカつくそのセリフに涙は引っ込み、やにわにムラムラと加虐心が沸き上がってくる。
ラスティはニヤリと笑って右腕を漆黒の剣に変え、ミニアズマの捻れた頭頂の枝をつまみ上げた。
「坊や、その『おっさん』がそのモップ頭を美しくチョキチョキしてあげようか?」
「うわ!樹木虐待反対!自然を笑うものは自然に泣くという諺を知らないのか!」
「うるせー、そんなもの諺でも何でもない!お前なんて元々天狼島にはない種だ、貴様こそ外来種は自然の敵だってことを知らねぇのか」
そういうと、ラスティはミニアズマを乱暴に根っこごと引きぬいた。
「おっさん!何すんだ!?」
「外来種の駆除」
ラスティがギャーギャーわめくミニアズマを肩に担いで彼を拾った浜辺へ戻ってみると。
「なんだぁ、こりゃあ!」
何とそこいら中にミニアズマが生えているではないか!
ある者は腕を組み、ある者はニヤリと口をひん曲げてぺろりと上唇を舐め、ある者は小難しい顔をして。
「こうして見ると、ますます憎たらしいな。お仕置きだ」
ラスティはどさりと担いでいたミニアズマを下ろすと、手当たり次第にミニアズマを抜き始めた。
「わあ!何すんだ、このクソオヤジ!根っこが地面に植わってないと死んでしまうじゃないか!!」
ミニアズマ達はその緑の葉っぱの生えた腕でラスティを必死でバサバサと叩いて抵抗する。
だがついに1体残らず引きぬかれ、ミニアズマ達は悔しそうにラスティを睨んだ。
「いい度胸だ、おっさん今に見てろよ」
「ふん、その減らず口もそこまでだ」
ラスティもさすがに肩で息を切らしながら、山積みになったミニアズマを見てにやりと笑った。
「この島から人間は出れんが植物なら出れる。『可愛い子には旅をさせ』ってなあ!」
そう言うと、ラスティはボンボンとミニアズマたちを海に放り込んだ。
「ゴホッゴホッ!海水は苦手なんだ、やめろ、このナルシストの変態オタク野郎!」
「はっ!最後まで可愛くねぇなぁ。こんな地獄のような島から出してやったんだ、感謝してほしいもんだぜ。あばよ、アズマ。運がよけりゃ、陸まで流れ着いて、どっかのお人好しに拾われるだろうよ」
憎々しく言い放つとくるりと背を向け乱れた髪をピシッと整える。
「「「助けて、おっさーんーーー!!」」」
大勢のミニアズマの悲痛な叫びもラスティの胸には響かない。
「お前の声なんかじゃ俺の欠片は震えねーよ」
あーすっきりした。
ラスティは久々に自分を取り戻した気がして、途中一瞬たりとも振り向くことなく清々しい気分で寝床に戻った。
--END--
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以前、私が日記でアズマさんの死を悼んでいて、それをご覧になった夏初月様があっという間に書き上げて下さったものです。
ミニアズマさんの口調が「おじちゃん」か「おっさん」かで迷われていたみたいですが、アズマさんの生い立ちによって、どちらでもイケるような気もしますね。
皆さんは、どう思われましたか??
アズマさんが世界のどこかに流れ着いて、増殖してゆく…何とも夢のある発想ではないですか〜(*^^*)
連れ帰って自宅の庭で育て、悩み相談などしてみたいものです…vvv
実は、このお話は続き物です。
「1〜3(今後続編もあるかも?)」を読みたい方は、夏初月様のサイト「獅子のしっぽ」様の、Gallery→BLUEへ是非どうぞ。
夏初月様、アズマさんFANの心の拠り所になるお話をありがとうございましたvvv