小説

□意外性の男
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よく、付き合いだしてから彼の意外な一面が見えた、とか言うよね。
女友達からだったか、あるいは本で読んだような気もする……
食卓の上で頬杖をつき、ぼんやりとそんな事を考えながら、レビィはキッチンに立って手早く食器を洗うガジルの背中を眺めていた。


意外性といえば、ガジルはその宝庫のような男である。
鋼のような体に鋭い目つき、おまけに顔面ピアスという、凶暴な外見。
いざ戦闘となるとその通りの面を覗かせるが、それ以外の日常においては、彼は基本的にモラリストであった。


例えば、まだ恋人同士になって間もない頃。
レビィは、自分の「初めて」の相手は彼しかいないと心に決めていたが、当のガジルがなかなか手を出してこない。
(やっぱり、私に色気が無いから…?背が低くて子供っぽいし、胸も小さいし…///)
思い悩んだあげく、意を決して彼に問いただしてみたのだが、返ってきたのは予想外の言葉。


「アァ!?ガキに手ぇ出せるかよ……18歳になるまでは駄目だ!!」


レビィは、自分の心配が杞憂であったとホッとすると同時に、(ええっ、そこなの!?)と半ば拍子抜けしたものだ。
どうやら、彼なりの基準があるらしい。
やがて彼女も18歳になり、間もなく2人は結ばれた。
レビィはたびたびガジルの部屋に泊まるようになり、合鍵をもらってからは更に頻繁になっていった。


今日も、いつものように前日の夜に彼の部屋を訪れ、そのまま泊まって朝を迎えた。
レビィの作った朝食を摂り、今こうしてガジルが後片付けをしているという訳である。


実は彼女自身、あまり家事が得意な方ではない。
もちろん最低限の事はひと通りやるが、寮の部屋は本で埋まっているし、料理や洗濯も少し不器用なところがあった。
むしろガジルの方が、部屋は殺風景だが片付いているし、身の回りの事も手際よくこなす。それも、ごく自然に。
最近は、レビィの方がそんな彼に甘えてしまう事も多くなった。


最後の一枚の皿を洗い終え、慣れた手つきでピッと水気を切ると、ガジルは戻ってきてレビィの向かいの席にドカッと腰を下ろした。
一部始終をじっと見られていた彼は視線を感じ、「何だよ」と不機嫌そうに訊ねる。


「ううん。ただ、ガジルが家事とかやるように見えなかったから、ちょっと意外に思って…。でも助かるよ、いつもありがとう!」

「…意外で悪かったな。こんなモン、できる方がやりゃぁいいだろ。」

「ごめんごめん。もぉーっそんな怖い顔しないでよ。」

「うっせぇ!もともとこういう顔だ!!」


何だかどんどん墓穴を掘ってしまいそうだったので、レビィは話題を変えることにした。


「ね、ねぇ。今日は天気もいいし、買い物につきあってもらってもいいかな?新しいワンピースが欲しいんだ。」


「買い物」と聞いて、やれやれと一瞬面倒臭そうな表情をしたが、ガジルは拒否の意は示さず、黙って身支度をするために腰を上げた。


レビィは、自分に似合うものをよく知っていて、彼女の可愛らしさを一層引き立たせる服をいつも身に着けていた。
しかし、ガジルはそれに対して褒めたり、感想を言ったりという事は一切しない。
好きな人に可愛く思われたいという気持ちはレビィにも人並みにあったが、ガジルにそういった事を求めるのがそもそも無理な話だと思っていた。
多分、興味もないのだろう。
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