小説

□かの君の名は
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バトル・オブ・フェアリーテイルは、ラクサスの破門という形で決着した。
収穫祭を無事に終え、フェアリーテイルのギルドはいつもと変わらぬ日常を取り戻していた。


2階の柵にもたれ、珍しく考え事をする男が一人。新しくこのフェアリーテイルに加入した、ガジルである。


最初の頃に比べると、不器用ながらも彼なりに周りに溶け込んできていたし、初めは恐れていたメンバーも徐々に彼を認めるようになっていた。
だが、元来孤独に慣れきった彼は、ときどき1階の喧騒を避けて全体を見渡せるこの場所に来ていた。




1時間ほど前。いつもの様に仕事を求めてギルドに顔を出したガジルは、胸からみぞおちの辺りにドンッと軽い衝撃を感じ、視線を下に落とした。


「…なんだ、お前かよ。悪ィな、小さくて目に入らなかったぜ」

「なな、なんだとは何よ!それに、小さい小さいって言うな!」


レビィの頬がパッと桜色に染まったが、ガジルは全く気付かない。
それから空腹を満たそうと彼が食事を摂っている間、彼女は向かいの席に座り、昨日あった出来事やら町に新しくできた店の話やら、他愛もない事をわぁわぁと語りかけてきた。


……気のせいか、最近何かとまとわりついてきやがる。ガキみてぇな女だ。


ガジルは話の内容には全く興味を示さずたまに生返事をする程度だったが、何故か彼女の声は彼の鋭い聴覚にとても心地よく、大人しくその場に居続けていた。
以前の彼ならば、考えられない事だ。



彼女があのフリードの忌々しい「術式」とやらから彼らを解放したのは、彼にとって少なからず衝撃的な出来事だった。


相手を叩きのめす力と強さこそが全て。それ以外は何もいらないし興味もない。
それだけが彼のアイデンティティであり、それに疑問を感じた事は一切なかった。


術式を解こうと、真剣にペンを走らせる彼女を上から覗いていたあの時。
書いている内容はさっぱり解らなかったが、これだけのものを習得するのに彼女が相応の努力を重ねてきた事を、彼は本能で感じ取っていた。


「お願い、ラクサスを止めて。」


そう言って彼をまっすぐに見つめてきた彼女の芯の強い瞳は、彼の心に鮮烈な印象を残した。

……こいつは、俺には無い「何か」を持っている。

あの時からガジルは、レビィに対してある意味一目置くようになっていた。
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