小説

□あの日の空は茜色
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気のせいかなあ…いやいや、絶対見てるよね?
わ、私、何かしたのかな…一応、清く正しく真面目に生きてきたつもりなんだけど。
あんな、アウトローなお方に目を付けられる覚えは……

「ねぇ、ちょっと!レビィってば!!もう先生来てるよ!?」

後ろの席のカナに指で肩をグリグリと突つかれ、レビィは慌てて前に向き直した。

「おおっ、何だァ?真面目な学級委員のお前が、珍しいな。何か悩みがあったら、いつでも胸に飛び込んでこいよ!ハッハッハ!!」

クラス中に、ドッと笑いが沸き起こる。
一つ間違えば寒いセクハラ発言だが、ギルダーツ先生がサラリと言うと全く嫌味がない。
どこか飄々として必要以上には干渉しないが、生徒が本当に困った時には親身になってくれるこの担任は、男女を問わず生徒から絶大な人気があった。
レビィは小さな体を恥ずかしさでますます小さくしながら、ギルダーツ先生の言葉に思わず口元をほころばせた。

二時限目の後の、休み時間。
レビィが大きく伸びをしていると、カナに再び肩を突つかれた。

「ねぇ、レビィ。ほら、アイツまたアンタの事見てるよ?」

レビィはドキリとしたが、悟られないように何食わぬ顔で訊ねた。

「アイツって?」

「またまたぁ。分かってんでしょ?あの怖〜いガジル君だよ。」

レビィは、カナが指差した一番後ろの席を恐る恐る見やった。

校則違反の、長髪にピアス。
周りと相容れない独特の雰囲気を身に纏い、不遜な態度で椅子にもたれて足を組んだ男は、疑いようがない程まっすぐにレビィを見つめていた。
口が裂けても言えないが、実はちょっと格好いいと思ってしまう自分がいる。

「そう、かな…でも何で??」

「あんたに気があるんじゃない?不良と優等生って、鉄板じゃん!」

「ええっ、まさか…///私なんて眼中にないよ、きっと。何か、違う世界の人だもん…。」

一ヶ月前に突然転校してきた彼は、とかく悪い噂が絶えなかった。
裏で、ここら一帯の不良グループを牛耳ってるとか。
前の学校で、喧嘩した相手を全員病院送りにして追い出されたとか。
どこで尾ひれがついたのか、人を殺した事があるらしいなんて聞く事もあった。

「いやぁ、絶対間違いないね。それにアタシが見たとこ、アンタも気になってるみたいだけど…違う?」

「ななな何言ってんの!!!そんなわけ…」

「意外と女には不自由してないって噂も聞くから、ボヤボヤしてると持ってかれちゃうよ?明日バレンタインデーだからさ、どんな反応するか試しにチョコ渡してみなよ!」

「もう…カナってば、面白がってるでしょ?そんな軽い気持ちで渡せる訳ないよ。もう、この話は終わり!」

ハイハイ、とカナはつまらなそうに席を立ったが、彼女の言葉は放課後までレビィの頭にこびりついて離れなかった。


翌日の、バレンタインデー。
どうしよう……結局、買ってしまった。ブランデー入りの高価なトリュフ。
黒にゴールドの箔を押した包装紙が、一目で本命のそれと分かる高級感を醸し出している。
もう、カナがあんな事言うから…ううん、違うかな。
こうして、彼の反応を確かめたいという気持ちを抑えられないのは…多分、そういう事なのだ。
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