小説
□面倒くさい女
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「新郎様は背がお高いので、こちらのフロックコートなんか、とてもお似合いになると思いますよ。」
「……じゃあ、俺はそれでいい。」
先程から繰り返される「新郎様」という呼び名にいささか食傷気味の男は、ウンザリした顔で答えた。
「新婦様は、どういった物がお好みかしら?よろしかったら、見本をいくつかお持ちしますよ。」
「えっと…、それじゃカタログを見せてもらえますか?」
新婦様と呼ばれた女は、若干遠慮がちに答えつつ、チラリと隣に座る男の顔色を伺った。
一応おとなしく腕を組んで座ってはいたが、顔に「全く興味が無い」と書いてある。
彼女は気付かれないように、小さな溜め息を漏らした。
三ヵ月後に結婚式を控えたこの若いカップル―――ガジルとレビィは、ウェディングドレスのレンタルショップに来ていた。
レビィがブライダル雑誌で探してきた、女性に人気のお洒落なお店だ。
別に豪華な式を挙げたいという気はさらさら無く、小さな教会でこじんまりとできれば十分だけれど...やっぱりドレスは納得のいく物を選びたい。
一生に一度の事だし、できればガジルにも綺麗だと思ってもらいたい。
そんなレビィのささやかな願いを知ってか知らずか、ガジルは目の前に置かれたドレスのカタログには一瞥もくれず、そっぽを向いて黙り込んでいた。
隣のテーブルを見ると、もう一組の若いカップルが、ああでもないこうでもないと盛り上がりながら幸せオーラを振り撒いている。
ガジルにあそこまで求めようとは思わないが、せめてもう少し興味をもってくれたら…。
「ね、ねぇガジル。この新作のやつなんてどうかな?可愛い……うっ!?た、高い;;」
「下らねぇ事気にすんな。お前の好きなもん選べよ。」
「本当!?じゃぁ…ガジルはどんなのが私に似合うと思う?」
「はぁ?俺に聞いてどうすんだよ。お前の衣装だろうが。」
「それは、そうだけど……ガジルにも選んで欲しいの!!」
「ったく、訳分かんねぇな……。大体結婚式なんざ、お前のための儀式だろうがよ?」