小説

□予感・3
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時刻は、夜の8時前。
人気の無いロビーを抜けて薄暗い階段を登ると、ガジルは事務所へと続く廊下をゆっくりと歩き出した。
ふと入り口のドアを見れば、ボンヤリとした明かりが漏れている。

(こんな時間に、まだ残ってる奴いんのかよ…??)

訝しげにドアを開けると、そこには全く予想外の人物が立っていて、ガジルは思わず目を見開いた。


サラサラの青い髪。

利発そうな、吸い込まれそうに大きな瞳。

小柄で華奢な身体に、淡いラベンダー色のワンピースを纏い、薄手で短め丈の黒いカーディガンを羽織ったレビィの姿がそこにあった。

今まさに帰る所だったようで、肩にはバッグを下げ、空いたほうの腕には焦げ茶色のダウンコートを抱えている。

見た事のない私服姿に鼓動が早まるのを感じ、ガジルはしばらく口を開く事ができなかった。
初めて恋した少年のように、ただその場に立ち尽くす。

一方レビィも、思いもかけないガジルの登場にしばらくポカンと彼を見上げていたが、やがてその表情は綻び、すぐに満面の笑顔を咲かせた。

「ガジル主任……!お疲れ様です!!」

嬉しくてたまらない、といった弾けるような声に、ガジルは我に返った。

「お…おう。今頃まで残業か?……って、まさかお前一人かよ!?」

レビィも立派な社員であるとはいえ、新入社員の女性を事務所に一人残して帰るとは…。
ガジルが少し声を荒げたので、レビィは慌てて否定した。

「いえ!アズマ部長が一緒に残ってくれて、たった今帰られたんです。ガジル主任、下で会いませんでしたか?」

「………あ。」

先程のアズマ部長の言葉と意味ありげな含み笑いを思い返し、ガジルは柄にもなく一人顔を赤らめた。

(あの人、このテの気をまわすタイプだったのか…?マジかよ;;)
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