リクエスト作品
□この小さな温もりを
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食事を済ませ、その女性を見送ったガジルは、リクエストボードに向かおうとカウンターの前を横切った。
ふと、自分に向かってニッコリと手招きしているミラジェーンと目が合う。
胸中で心当たりを探していると、なおも「ここに座れ」とばかりにトントンとカウンターのテーブルを叩かれ、彼はしぶしぶ彼女の目の前に腰掛けた。
さしものガジルも、彼女には何となく逆らえない雰囲気を感じているようだった。
「……で?どういう事か説明してくれるかしら??」
「あァ!?いきなり何だってんだよ;;」
「単刀直入に聞くわね。今の女性は、あなたの何?」
「……別に何でもねぇよ。前に仕事の依頼を受けた女だ。お礼に食事でも…とかしつこくぬかしやがるから、付き合ってやったんだよ。依頼人だし無下にもできねぇだろうが?」
「なるほどね。それは分かったわ。……で、その事あの子にはちゃんと説明したの?」
「……なんでアイツにいちいち言わなきゃなんねぇんだよ?」
「へぇ。私は『あの子』って言っただけよ?通じるって事は自覚はあるわけね。」
「うっ;……だから何だよ!?」
「さっきあなた達を見て、外へ駆け出してったわ。…泣いてたわよ、あの子。」
ガジルの瞳の奥に激しい動揺の色を見てとったミラジェーンは、フッと短い溜め息を漏らす。
「ねえ、ガジル。念のため聞くけど、レビィにちゃんと『彼女になってくれ』ってハッキリ言ったの?」
彼は、今まで女性を知らなかった訳ではない。
だがそれは、とても「恋愛」とは呼べないような殺伐とした関係であり、いわゆる「普通の恋愛」とは無縁の人生を送ってきた男だ。
そんな彼が、レビィと出会いぎこちなく接する中で、理屈ではなく徐々に彼女に惹かれていった。
あの時「他の女と比べるな」と言ったのは、彼の中でレビィが唯一無二の大切な存在になっている事を認めた、偽らざる正直な気持ちだった。
あれ以来、レビィ同様にガジルもまた、彼女にどうやって近づいていったらいいものか分からず、悶々とした日々を送っていたのだった。
「…何だ、それ。いちいちそんな事言わなきゃならねぇのかよ?」
やっぱりね、といった感じで、ミラは今度は少し長めの溜め息を吐いた。
「案外男らしくないのね、肝心な事は言わないなんて。」
「……んだとコラ!?」
男らしくないという言葉に、ガジルは片眉(…は無いが)をピクリと上げて凄んだが、ミラジェーンは少しも怯むことなく続けた。
「……あのねぇ;アナタは勝手に彼女をものにしたと思ってるのかもしれないけど…女の子は、気持ちでは分かっていても、好きな人からの確かな言葉が欲しいものよ。…特に、レビィみたいな子はね。」
「………。」
「現にあなたの軽はずみな行動で、彼女を不安にさせているでしょう?」
「俺にどうしろってんだよ……クソッ!!!」
「それはアナタにしか分からない事でしょ?よく考えてみる事ね。あの子、ギルドのメンバー以外にもすごくファンが多いから、ボヤボヤしてるとさらわれちゃうわよ。」
精一杯の虚勢を張って「チッ」と大きな舌打ちを一つすると、ガジルは椅子を蹴って立ち上がり、ことさら大きな足音をさせてリクエストボードへ向かった。