リクエスト作品
□病める時も健やかなる時も
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初めて降り立った遠い異国の地、ジパング。フィオーレ王国よりも多少空気が湿り気を帯びている。
「くぁぁ……っ。もう着いちまったのか、なんか実感ねえな。」
狭い座席にしばらく身を縮ませていたせいか、ガジルはしばらく首をコキコキと鳴らしていたが、普段から鍛えているためか、すぐに元の調子に戻ったようだった。
この国の言語は、フィオーレ王国とは違う。
だが、客をもてなすという精神が自然と根付いているようで、主な場所には必ず通訳が一人は置かれていた。
レビィは、予め勉強してジパング語の日常会話程度は操れるようになっていたので、言葉の通じない所では彼女が通訳をした。
旅館に到着すると、「お前の得意分野だろ。頼む」と言ってガジルはレビィにチェックインを任せた。
彼女がカウンターで手続きをしていると、同じくどこか外国からやってきたと思われる2人の客が、横で受付と何やら揉め始めた。
どうやら何かクレームをつけているようだ。こんな時間から酔っぱらっているのか、呂律が回っていない。
見かねたレビィが間に入って通訳をしたが、今度はあろう事かレビィに絡み始めた。
ガジルは少し離れた所で見ていたが、2人の男の矛先がレビィに向かったと見るや、ズカズカと近寄ってきて彼らを見下ろした。
いきなり乱入してきた大男に驚きつつも、今度はガジルに向かって何やらわぁわぁと喚いている。
「……何言ってるか分かんねぇよ!いい歳してみっともねぇ真似してんじゃねぇ!!他の客が待ってんだろうがよ!?」
ガジルは彼らの首根っこをヒョイと掴み上げると、荷物のように軽く放り投げた。
床に尻餅をついた2人の酔っ払いは、ばつが悪そうにそそくさと旅館を後にした。
「あ、ありがとう。お酒の相手しろとか言われて、どうしようかと思った;」
「おう、大丈夫か?」
「ガジル、やっぱりカッコいい…えへへ///」
「何言ってやがる///…ったく、酔っ払いはもう懲り懲りだぜ!!」
ガジルとレビィが案内された部屋は離れになっていて、専用の露天風呂と庭がついていた。
ここならば、気兼ねなくゆっくり過ごせそうだった。
「うわぁ〜!!ガジル見て、畳だよ!!!ここでゴロゴロできるんだよ〜vvv和室って、泊まってみたかったんだvvv」
子供のように畳の上でゴロゴロと転がってみせるレビィに、ガジルは苦笑しつつも柔らかい視線を向けていた。
彼女が嬉しいと、自分も嬉しい。
レビィと付き合いだしてからは、そんな人間らしい当たり前の感情が、殺伐としていた自分の心に徐々に根付いていくのを感じていた。
「……へえ。悪くねぇな」
ガジルもレビィの隣にゴロンと横になると、腕を頭の後ろで組み、静かに目を閉じた。