リクエスト作品

□ようこそ、この素晴らしき世界へ
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「父ちゃんなんて嫌いだ!!バカヤロー!!!」

家中に響き渡る叫び声。
次の瞬間、少年は父親と口論していた部屋を飛び出し、リビングで夕食の後片付けをしていた母の元へと駆け出した。

「あらら、今度はどうしたの……??」

小柄で、年齢のわりに可愛らしい雰囲気を持つ母親は、別段動じる風でもなく息子を迎え入れた。
それまでキャッキャとはしゃいでいた幼い弟や妹達も、不思議そうに兄を見つめている。

「明日の釣り、シゴトで行けなくなったって…。ずっと前から約束してたのに…ひでぇよ……!!」

「そう…。でもね。お父さんは今、とっても大切な仕事を抱えてるの。
私達がこうやって大きなお家に住んで、毎日美味しいものが食べられるのも、お父さんが一生懸命外で仕事をしてくれているからなのよ。」

「でもこの前だって、シゴトでキャンプに行けなくなったって……俺、すっげえ楽しみにしてたのに…!!
父ちゃんは、俺よりシゴトの方が大事なんだ!!!」

母親は、息子の言葉を黙って聞きながら、別の事を考えていた。

この子は本当に、あの人によく似ている。
向こうっ気の強そうな赤い瞳。口元から僅かに覗く白い牙。
母親譲りの柔らかな青い髪を除いては、背格好や佇まいに至るまで、その全てを父親から譲り受けているようだった。
彼らは近所でも評判の仲の良い父子だったが、その反面、よく似た気質を持っている為にぶつかる事も多い。

「…で?父さんは何て言ったの??」

「お前もオトコならいつか分かる、って……。」

彼女は可笑しくなってプッと小さく吹き出すと、身体を屈めて息子と同じ高さに目線を落とした。

「ゴメンゴメン。父さんらしいなって思って…ね。でも父さんにとって、この世にあなた達より大事なものなんて…絶対に無いのよ。」

息子は口を尖らせたままで、黙って母の言葉に耳を傾けていた。

「あなたが母さんのお腹に来てくれた時、どれだけ父さんが喜んだか…見せてあげたかったなぁ。」

「俺が、母ちゃんのお腹に…来た時!?」

いま一つピンと来ない顔つきで、彼は不思議そうに母の顔を見つめた。
彼女は夫のいる二階にちらりと目を遣ると、人差し指を立てて唇に当て、「内緒よ」というジェスチャーをした。
そして、ゆっくりと言葉を選びながら語り始めた。彼がお腹に宿ったのを初めて知った、あの日の事を………。
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