リクエスト作品

□今は、それでいい
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薄っすらと目を開けると、見慣れない天井の模様がボンヤリと現れた。
まだ覚束ない思考の中で、レビィは懸命に記憶をたぐり寄せた。

(……そうだ。私、プールで泳いでて、溺れちゃったんだ。それで……)

気を失ってからここに来るまで、何か大きな温かいものに包み込まれ、ゆらゆらと揺れていたような気がする。
それは、何ともいえず心地よい感覚であった。


「…………あ。」

レビィが僅かに声を漏らすと、目の前にヌウッと黒い影が覆い被さった。
見覚えのある赤い瞳で間近に見つめられてレビィが飛び起きると、ゴンッという鈍い音が響いた。

「アイタタタ…;;」

「……っっ痛ってぇ…急に起き上がるんじゃねぇ!!!」

「……ガジル…!!」


レビィが改めて辺りを見回すと、そこは確かにギルドの医務室であった。
目の前には、水着姿のままで額を押さえるガジルの姿。

と、いう事は…あの時の感覚は、もしかして……。

「ガジルが、ここまで運んでくれたの…??」

「オメー、昨日はしっかり休んだのか?」

ガジルはレビィの質問には答えず、逆に質問で返してきた。

「ううん。実はちょっと、遅くまで調べ物してて…。」

「やっぱりな…。もう体調の悪い時に、プールはやめとけよ。水ってのぁ、思ってるより怖ぇんだぜ。」

「うん。…ごめんなさい。」


何だろう、この違和感。

レビィが改めてガジルを見つめると、その正体はすぐに明らかになった。
いつもは頑固なほどに後ろに貼り付いているガジルの前髪が、濡れて無造作に下りていたのだ。
まだ乾ききっていないその先から、ときおり雫が滴り落ち、引き締まった鋼のような胸板を伝ってゆくその様には、何ともいえない男の色気が漂っていた。

……そうだ。

あの喧騒の中で、彼はレビィの危険をいち早く察知して、なりふり構わず飛び込んできてくれたのだ。


ドキンと、レビィの胸が高鳴った。

ガジル、何だか違う人みたい。
すごく格好いい…けど、恥ずかしくて直視できない。

お願い―――――。
静まれ、静まれ、私の心臓。
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