裏小説
□忘れられない誕生日
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『わたし、ちゃんと覚えてるからね。
「18歳になったらな」って、あなたが言ったこと。』
ガジルと恋人同士になってから、レビィは彼の意外な一面にたびたび驚かされてきた。
彼の女性遍歴に関しては、一切レビィの知るところではない。というか、知りたくもない。
だがガジルは、少なくとも現在の彼女であるレビィに対しては驚くほどマメだった。
素直ではない性格上、表し方は少々まわりくどかったが…。
先月の、デート中のこと。
何軒も回って見つからなかった、人気の新刊が置いてあるという噂を聞き、喜び勇んでとある書店に立ち寄ったのだが…。
僅かの差で売り切れた後だったらしい。
ついさっきまで平積みになっていたと思われるそのスペースがガランと空いており、店員が書いた「大人気!30万部突破!!」というPOPの文字がむなしく躍っていた。
ションボリと肩を落とすレビィを尻目に、ガジルは「おい、無ぇんなら行くぞ。」と、まるで興味が無いという呈でさっさと店を出てしまった。
後日、そんな事も忘れかけた頃。
図書館の机で調べ物をしていたレビィは、突然目の前にドサッと放り投げられた何かに驚き、上を見上げた。
彼女を見下ろす赤い瞳と、不意に視線が合わさる。
その人物を確かめ、改めて目の前の物体に目を落とすと、そこには先日手に入れそこなった新刊の小説があった。
「ガジル!!こ、これって…どこで見つけたの!?」
「……別に。偶然あっただけだ。欲しかったんだろ?」
どこまでを「偶然」と呼ぶのかはさておき…
一度見ただけの本の題名を、覚えていてくれたこと。
そして、レビィが欲しがっているのを少なくとも気にかけてくれていたこと。
何より、この淡いピンク色の表紙の恋愛小説を、どんな顔をしてレジに持っていったのか…
そこに思いを馳せた所で、レビィの心の中に、温かくてくすぐったい感覚がジワリと広がった。
そして、先週のことである。
「お前、来週誕生日だったな。」
「えっ…お、覚えててくれたんだ///」
「まぁな。……で?何が望みだ?」
相変わらずぶっきらぼうな物言いだったが、レビィはもう、その裏に隠された優しさを十分感じ取る事ができるようになっていた。
「あのね。別に、そんな遠くじゃなくてもいいの。静かな所で…景色とか建物を見たり…あ、でもちょっとは買物もしたいなぁ。」
「…………??」
「えっと、その……一緒に旅行したいなぁ、なんて…と、泊まりで///」
一瞬ピタリと動作を止めた後、ガジルは腕組みをして、レビィの瞳を真っ直ぐに見据えた。
「………構わねぇのか?」
その言葉の意味する所を十分理解していたレビィは、真っ赤になって俯いたまま、小さく首を縦に振った。