P4

□背中合わせのナルキッソス
1ページ/1ページ




「やべェな…」
どんよりと、鉛より重い溜め息を吐きながら、陽介は手にした苦無をきつく握り締めた。
冷たい霧に閉ざされた世界は、異形の気配が満ちるばかり。
一緒に戦っていた仲間達はこの魔窟の何処かに居る筈なのだが、先の戦闘で離れ離れになってしまった。
「番達…怪我してねェかな…」
特別捜査隊のリーダーである番に、雪子と直斗を託し、陽介はシャドウの気を逸らす為に反対方向へ逃げたのだ。
その為、完全に孤立してしまい、見渡す限り霧しか見えない小部屋の中で途方に暮れていた。
りせに呼び掛けても返事はなく、帰還アイテムもない。
「…しゃーねーな」
幸いまだ体力と精神力には余力があったので、陽介は徒歩で魔窟の外へ出ることにした。
もしかしたら番達に合流できるかもしれないし、待っているだけというのは、何とも居心地が悪い。
辺りに漂うシャドウの気配に気を付け、来た道を思い出しながらゆっくり歩く。
りせの声がなくとも、其処ら中から悪意に満ちた気配を感じて、陽介は背中が薄ら寒くなる。
『無理に動かないで待ってた方が良くなくないか?』
身の内から聴こえる呆れたような口調のスサノオの声を無視して、陽介は先へ先へと急いだ。
確かにスサノオの言うことは尤もなのだが、ただ待ち続けるのは嫌だった。
自分は番の相棒であり、決して守られるばかりの存在ではない。
対等にいたい、こんな事態くらい平然と乗り越えて、あわよくば鼻を明かしてやりたい。
ほんの僅かな意地が、一番の安全策を蹴り飛ばし、今の陽介を突き動かしていた。
『面倒くさ…』
「悪かったな!」
今度こそ馬鹿にしたみたいなスサノオに、陽介は顔を赤くして反論する。
最初は生意気な口調の影が鬱陶しかったが、今となっては、自分を真っ直ぐに映す金の瞳を時々恋しく感じたりする。
陽介が沈みがちな気分の時や、深く悩み悲しんでいても誰にも話せない時。
そんな時、たまにスサノオが夢の中へ出て来て、二人でぎゃあぎゃあと言い合いをしながら、問題を解決していく。
詰まる所は自問自答なのだが、我が身にもう一人の自分が宿る以前より、もっと落ち着いて内面と向き合えるようになっていた。
憎たらしいことを言う時もあるが、それも自分の声として受け止める。
陽介にとってのスサノオは、そういう存在だった。
「なぁ、」
『…何だよ』
ふわりと口許を緩めて、陽介がスサノオを呼ぶ。
その笑い方は、何処か大人びた色をしており、いつも近くにいる番によく似ていた。
「俺はお前が嫌いだよ。何でも見透かすし、鬱陶しいことばかり言う」
『はぁ!?』
脳内にスサノオの絶叫が響き渡り、陽介は益々可笑しそうに笑みを深くする。
「でも、お前じゃなくちゃダメなんだ。どれだけムカついても、やっぱりお前がいい」
陽介は右手を胸に置き、優しく一撫でする。
精一杯の親愛を込めた指先は、魂に寄り添うスサノオにも確かに届き、柔らかな温もりを生む。
『狡ィよ、お前。俺はそんな顔出来ねーよ。独りで格好良くなりやがって』
ふん、と面白くなさそうに不貞腐れた自分と同じ顔。
その顔が昔の自分によく似ていて、陽介は弟が出来たような錯覚を覚えてしまった。
『お前がオニイサマとか冗談じゃねーよ!只でさえ俺は末っ子なんだから、これ以上兄弟増やすな!!』
「はいはい。番達探すぞ」
軽い足取りで、霧の中を陽介は進む。
相棒とは違う強さで自分の中から響く声が、確かに背中を後押ししてくれていた。



.






アマテラス
ツクヨミ
スサノオ

イザナギパパの子は、みんな個性派(笑)
影村さん可愛いよー。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ