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□思えばそれは、恋でした。
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美しい銀の軌跡を見たのだ。強く、鮮やかに輝く光を。
最初は脆弱な、すぐ消えてしまいそうな光だったのに、今では。闇の底まで貫いてしまう。
目障りだった。青臭い夢を掲げて、英雄ごっこを繰り広げるお子様達が。
そんな陳腐なごっこ遊び、鼻水を垂らした幼稚園児でもやらないよ。
真剣になって、必死で。格好悪いったらないね。下らない。
もっと気に入らないのは、大したことない虫けらが、徐々強くなる銀の光に集まること。
誘蛾灯に集って焼き尽くされちゃえよ!なんて呑気に構えてたら、虫まで光出した。
(蛍かよ)
折角のゲームが面白くなくなっていく。水を注さないでよ。最後まで遊ばせて。
この下らない世界で。



「が、っは…!」
罅割れた地面に叩き付けられる。狂った色をした空が、目の前いっぱいに広がった。
手も足も力が入らないし、息をするのも正直怠い。どうやらゲームはお仕舞いらしい。
「は、は。詰まん、ね…」
口許が歪んで、カラカラに乾いた笑いが溢れて来る。別に面白くも何ともないのに。
視線を下にずらすと、僕を焼き尽くした銀の光が、真っ直ぐにこちらを見ている。
じろじろ見るな。どうせ格好悪いオッサンだよ。…いや、まだオニイサンです。
彼は、眩し過ぎる。彼の後ろに控える「オトモダチ」も、眩しくて虫酸が走る。
とっくに僕が亡くした物を、これ見よがしに見せ付けないでよ。自慢とか、最悪。
光に焦がれたこともあったけど、それは随分と昔の話。やっぱり僕は暗い場所で届かない月に手を伸ばすのが似合ってる。
一歩ずつ、銀の光が近付いて来る。どうやら全てを終わらせるらしい。いいよ、好きにすれば。
どうせここで寝転がっていても、シャドウに喰われるだけだし。つか、もう寝かせて。
初めて欲しいと願った光に、喰われるなら悪くない。そう自分に言い聞かせながら、僕は目を閉じた。


恋なんかしたことなかった。女はみんな馬鹿だ。
でも、今まさに僕の心を焼き尽くそうとしている光に、どんな名前を付けようか考えてみると。


―やはり、それは『恋』だった気もする。


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