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□おやすみ、可愛い人。
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「コスプレの意義って何だと思う?」
綺麗な目で真っ直ぐ俺を見詰めたまま、長太郎が意味不明なことを言い出した。
「はぁ!?いきなり何だよ…」
思わず読んでた雑誌を顔面目掛けてぶつけてやろうかと思ったけど、後が怖いので止めておく。
本当にコイツは唐突に意味不明なことを言い出して、周りを混乱に貶めるのが得意である。
テンタラフーオートなんていうスキル、あったかなぁと首を捻っていると、更に長太郎が口を開いた。
「そもそもコスプレって何だろう…。例えば、俺達が着ている学生服だって、コスプレの一種と言えるじゃないか」
淀むことなくすらすらと唇から零れる言葉は、凛とした声で彩られていて、思わず聞き入ってしまいそうになる。
…いやいや、待て待て。
学ランはコスプレと違うから。
そりゃ、学生以外の人間が着たら、コスプレになるかもしれないけど。
「俺達、毎日コスプレで学校行って、テレビの中で戦ってるのか…。恥っずかし〜い」
全く止まる気配を見せない長太郎の独り語り。
このまま放置しといてやろうかと無視を決め込んだ瞬間、ちらりと何かが脳裏を掠めた。
「長太郎…お前、もしかして…」
恐る恐る長太郎の頬に手を添えて、綺麗な色をした瞳を覗いてみる。
「何?どうしたの…陽介」
優しく微笑まれて、瞳の中に俺が映る。
ああ、やっぱり。
「お前、寝てないだろう」
掌で長太郎の目をやんわり覆って、そのままソファーに押し倒してやる。
俺より幾分しっかりした体は、抵抗もなくソファーの上に倒れて動かない。
「積極的だね、陽介。ソノ気になった?」
「馬鹿。目の下に隈が出来てるような奴とは、何にもシません」
考えてみれば、菜々子ちゃんと堂島さんが入院してから、二人の見舞いや、家事が一気にコイツにのし掛かって来ているのだ。
それなのに、今まで通り部活もバイトも、テレビの中の探索も平然とやってのけている。
弱音の一つも吐かず、平気な顔をして。
授業中だって、俺の前の席で真っ直ぐ背中を伸ばしていたじゃないか。
凛とした背中に、微塵の疲れも見せなかったのは、流石としか言いようがない。
「…バレたか。完璧だった筈なのに」
「おう。俺を舐めるな」
精一杯の強がりを言いながら、唇の端だけで長太郎が笑う。
悲しく愛しい微笑みが、俺の心に突き刺さる。
もういいよ。
もういいから。
だから、今は。
「もう少しだけ、こうしてて」
抱き締められたまま聞いた声。
大切に大切にしたい優しい声。
長太郎の目に当てた掌が、少しだけ温かく濡れていた。



けれど、それさえも愛しい。
おやすみ、可愛い人。



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花村陽介への3つの恋のお題:傷つけてもいいから/星に願いを、月に祈りを/『おやすみ、可愛い人。』
http://shindanmaker.com/125562


サモナイ4の時にも、傷心で同じネタやったな…。
ツクヨミが番長で、シンゲンが陽介。

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