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□英雄の条件
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※番長→鳴上悠でお送りします。


英雄になれなくても。
幻に惑わされない、真実を抱いて。




「悠先輩、返事してよ!悠先輩ーッ」
闘技場を模した、殺人犯の少年が造り上げたダンジョンに、りせの悲鳴が木霊す。悲痛な声が呼ぶ名。特別捜査隊のリーダー、鳴上悠の姿はそこにはない。
「畜生、どうなってやがる!先輩は何処に行ったんだよ!?」
苛立った完二が、ヒミコを使い必死の探知を続けるりせを怒鳴る。八つ当たりと解っていながらも、声を荒げずには居られなかった。
捜査隊の指揮を一手に引き受ける悠が、突如として姿を消したのだ。殺人犯の少年と対峙した瞬間、眩い光に包まれたかと思うと、既にその姿は無かった。
結果的に、少年の影が暴走を引き起こし、嬰児の姿をしたシャドウが現れた。今までの仲間達の影に比べ、姿は小さいが、その力は桁外れに強大であった。
加えて指揮官たる悠の不在。仲間達は十分な力を発揮出来ず、劣勢を強いられるしかない。
「もう駄目クマ…。げ、限界クマー!」
ペルソナが覚醒してから日が浅いクマが、真っ先に精神力を消耗してしまう。着ぐるみで表情が解り辛いが、声は完全に弱り切っており、心なしか毛並みに艶が無くなってきた。
「クマ君、頑張って!」
「待ってて、今治すからね」
千枝と雪子も、攻撃と治癒に追われてしまい混乱しつつある。常ならば破壊力の大きいトモエの動きも精彩を欠き、コノハナサクヤの治癒の力も満足に届かない。
また、少年の影が飛ばすブロックから皆を護る為、ジライヤとタケミカヅチが防戦一方になってしまう。何時も、先陣を切る陽介が完全に後手に回ってしまっているのだ。
「鳴上、何処だよ…!」
陽介が頬を伝う汗を拭い、息を弾ませる。隣に居た筈の悠が消えたことに気付いたのは彼だった。
共に駆けた鮮やかな存在が見当たらない。陽介の胸は軋むような痛みに襲われ、思わず慟哭が喉を切り裂きそうになった。
しかし、不安気な仲間達の表情を目の当たりにして、すんでのところでそれを飲み込んだ。今、嘆いていたとて、状況は改善しない。ならば、悠を奪り還す為に出来ることを探す方が最優先だと思考を纏めた。
彼が戻る迄の間、仲間達を護る。悠のように、的確に冷静な指示を出せる自信は陽介には無かった。
けれど、喪いたくない一心で。悠も、仲間も。己が結んだ絆も全て。
ぐっと拳を握り締め、ひたりと前を見詰める甘い色の瞳に、確かな光が宿る。
「アイツを…悠を信じよう。俺に力を貸してくれ…!」
疲弊していく仲間達の耳に、陽介の凛とした声が届く。はっとした表情で、様々な色をした瞳が織り成す視線が、華奢な体に注がれた。
「ヨースケ、カッコいいこと言ってるクマ」
「花村のクセにね!」
こんな状況だが、皆の声に明るさが微かに戻る。くしゃくしゃになったクマの毛並みを整えてやりながら、千枝が笑う。
「…花村君、私の力をあなたに預けるよ」
「花村先輩!俺もやるッスよ!!」
「二人を信じる!必ず見付け出すから」
優しく微笑む雪子に続き、完二とりせも固く決意を示した。一時は標を喪い散ろうとしていた絆の力が、再び結ばれる。
「よし、そうと決まれば…来い、ジライヤ!!」
軽やかに身を翻し、燐光を放つ蒼いカードを陽介が砕く。喚び掛けにより現れたジライヤが、そっと主を抱き寄せて宙を舞う。
「りせ、探知レベルを上げて皆のサポートを頼む!」
「解った!」
「クマは回復に回れ。完二は何が何でも皆を護れ!」
「了解クマー」
「ッス!!」
次々と出される指示は、悠を彷彿とさせ、仲間達の闘志を段々と蘇らせていく。陽介の琥珀色の瞳に、銀の虹彩が浮かび上がる。
「天城はブロックを焼き払って、里中が突入する隙を作ってくれ。里中は全力でシャドウをブッ飛ばせ!」
「解ったよ。頑張ろう、千枝」
「OK、雪子!」
幼馴染み二人も、互いの顔を見合わせて頷き、意識を集中させて行く。誰の目にも、迷い等は無い。悠を助けたい。それだけの想いが、限界を越えても尚、立ち上がる力になっているのだ。
「ジライヤ、あれで間違いないんだな」
微かな悠の残滓を教えるジライヤ。示す先には一際大きなブロックが浮かんでいる。
『ああ。あれからアイツのペルソナの力を感じる。酷く弱って消えそうだけど』
影として生まれ、ペルソナへと転じた瞬間から、常にイザナギと共に駆けて来たジライヤだ。イザナギの気配を見失う筈はない。
「よっしゃ、行くぜ!!」
強まる仲間達の結束に応えるかのように、陽介が吼える。目指す先は、悠が囚われた無機質な檻。
どんなまやかしにも惑わされない真実の光を宿した声が、孤独な魂に届く迄。
―後、僅か。


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格好いい陽介のMAD動画を見てしまったので弾みで書いた。
また、何処かのサイト様で「悠が囚われている間、陽介達が奮戦する話が見たい」と書いておられる管理人様がいらっしゃいました。その方の一言も、この話を書くにあたって大きな影響を受けました。
もし不都合等がありましたら教えて下さい。

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