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□Bitter&Mild
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「はい、バレンタインなんか死ねばいいと思います」
突然長太郎がそんなことを言い出したのは、二月十四日の朝だった。
大概突拍子もないことを言い出すのが好きな奴だが、教室に入るなりそんなことを言い出すのだから、少し驚いてしまう。
「なんで?お前チョコ一杯貰えるのに、何がそんなに気に入らないんだ?」
さっきだって、靴箱いっぱいに恋する乙女達からのチョコがはいっていて、男として羨ましい限りだ。
どうせ俺なんか貰えるチョコの数なんて知れている。
別に長太郎に張り合う気もないし、「俺という恋人がいながら、他の女からチョコ貰うな!」とか言う気もない。
別に良いじゃないか。
俺は別にそんなに心の狭い奴じゃない。
恋する乙女達よ、大志を抱け!…てね。
「陽介は解ってないな…」
海より深い溜め息を吐きながら、絶対零度の眼差しで長太郎が言う。
暗澹としたオーラを纏うその姿を見て、教室の入り口で引き返した生徒が何人かいた。
可哀想に。
あの気配はテレビの中だけで放つ物だった筈なのだが、まさかここに来て復活するだなんて。
長太郎の机の上に並べられた、色とりどりのラッピングに包まれたチョコレート達。
ジュネスで入荷した物や、手作りの物、それから沖奈市の高級デパートに行かないと買えない物。
朝の内だけで十個以上貰っているのだから、凄いとしか言いようがない。
「美味そうだなぁ…」
寝坊をして朝飯を食べられなかったので、俺のお腹の虫は可哀想な声で鳴いている。
「食べる?」
流石に長太郎にもお腹が鳴ったのが聞こえたらしく、気の毒そうな顔をして、ジュネスで売ってるチョコを差し出して来た。
赤いラッピングのハート型の箱に入ったチョコは、一番の売れ筋商品だ。
けど俺は、それを貰う訳にはいかない。
「いや、それ長太郎の為に用意された物だし。お前が責任持って食え。何ヵ月かかってもだ!」
「お前、怒ってないか?」
的外れなことを言う長太郎はこの際無視しておく。
どうしようもない人たらしの癖に、妙に鈍い所がある奴なのだ。
本当に解ってないな。
この俺が怒る訳がない。
長太郎が誰からチョコを貰おうと関係ないし!
……でも、何だろうな、この気持ちは。
甘い甘いチョコを前にして、こんな苦い気持ちになるなんて。
「…意味が解らない」
「それはこっちの台詞だよ」
綺麗に重なった二人の溜め息に、やっぱり俺は思わずにはいられなかった。
死ね、バレンタインデー!


おわれ。




冒頭で番長が鬱になってるのは、無意識に陽介がイライラしてるのを感じてるから。
…という裏話があったけど、着地点を見失ったよ。


管理人実体験(笑)

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