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□白に染まる夜
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最近、スサノオの元気がない。
以前なら、俺が気を抜こう物なら直ぐ様警告をして来たり、呼べば生意気な返事が返って来た。
しかし、この頃は眠りの淵に沈んでしまっていることが多いらしく、話掛けても、殆ど反応しない。
「スサノオ!おい、起きろよ」
何か嫌な予感がして、俺は必死に影の名前を呼んだ。
すると、煩かったのか重々しい気配を纏ったまま、スサノオが心の底で目を醒ましたようだ。
『煩ェよ、馬鹿』
気怠い声が、俺の中に響く。
不調をありありと思わせる声音に、魂が冷えるのを感じた。
「最近調子悪ィの?大丈夫か?」
何時もしているように、右手で胸の辺りをそろりと撫でる。
すると、スサノオは猫が目を細めるような気配を漂わせた。
影は安堵しているようで、先程冷えた心が僅かに暖まるのを感じる。
『もうすぐ、夏至だろ?だから、ちょっとな…』
溜息混じりでスサノオが呟く。
「夏至…。あぁ、そうか」
夏至は一年中で一番長く太陽が空で輝き、夜を喰らう。
影は夜に属する者。
だから、白光が存在を毒し、弱らせて行くのだ。
『情けねェよな』
不貞腐れたみたいにスサノオが言う。
長太郎が居なくなってから、俺の身を守ったり、第二の相棒的な役割を勤めていただけに、弱り果てた自分が口惜しくて仕方ないのだろう。
「お前って時々可愛いよな」
『はァ!?』
力一杯響いたスサノオの絶叫を無視して、労うように優しく胸を撫でてやる。
少しでも疲弊した魂が癒せるように。
「そんな時位、頑張んなくていーんだよ」
負けず嫌いな所まで俺に似てしまった影に、微笑む。
自分の未熟な部分を集めて生まれた所為、幼さを残すスサノオが可愛くて仕方なかった。
認めたくなかった本音達が、静かに昇華して行く。
『お前、マジでウザいよな』
ぶつぶつと呟きながら、影は一つ欠伸をする。
まだ長い昼の最中に起こしてしまった反動だろう。
「ゆっくり休めよ」
きゅっと目を閉じて囁いてやる。
俺を大切に想い、重ねた無理に、少しでも報いてやれるように。
『…何かあったら、起こせよ』
とろりと金の瞳を閉じて、スサノオが眠りの海に沈んで行く。
絶対の安寧を司る夜の闇は与えられないが、陽の光の中でしか得られない優しい時間ならば作り出せる。
まだ無垢な存在であるスサノオに、少しずつでも、鮮やかで美しい世界を教えることが出来たなら、と。
幼子のような寝顔を見守りながら、俺は思ったのだった。

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