Short Story

□サウンドハウス
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― 第1話 ―


1998年、風薫る5月。

祐太は16歳の高校2年生。
CDショップ「サウンド☆ハウス」でバイトをしている。
従業員は店長の村山(32)と紀代香(24)の2名。
バイトの祐太を含めても3名しかいない。

店長の村山は善人とゆう名の絵の具で描いた肖像画みたいな男だ。
同級生の妻と5歳の娘1人がいる。
たとえ天地が裂けることがあっても、この人だけは絶対に浮気することがなさそうだ。
偶然だが、祐太が通っている高校の大先輩にあたる。

独身の紀代香はお笑い芸人「森三中」に匹敵する、おいしそうな体格をしている。
祐太が聞いた話では、高校卒業と同時に山間部の村からやってきたそうだ。
なるほど質素で純朴な女性だ。
紀代香は祐太を弟のようにかわいがり、祐太もまた紀代香を姉のように慕っていた。
祐太は前年起きた家庭の崩壊でひとりぼっちになり、全日制の進学校に通いながら、この店のバイトと朝の新聞配達の両方で生計を立てていた。
そんな祐太がひどい失恋をしたとき、一緒に涙を流し、そっと頭をなでてくれたのも紀代香だった。


<続く>

 
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