□僕らの恋愛価値観
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気だるい体を起こし、隣で眠る男の顔を見た。

「どうかしたか?」

「別に。」

顔にかかった長い髪を耳に掛ける。

「その動作、癖か?」

「まぁね。それより帰らなくて大丈夫?」

「大丈夫だ。」

男の名は白哉。

かの六番隊隊長だ。

そして女の名は奏。

白哉の幼馴染で八番隊の三席。

二人の関係は現世で俗に言うセックスフレンド。

飲み会で酒に酔ったのが始まりだった。

妻を亡くした悲しみも重なって白哉は冗談交じりの奏の誘いに乗ってしまった。

「何かあった?」

「何故?」

「白哉が帰らない日って珍しいから」

「奏が恋しくなった」

奏を引き寄せ抱きしめる。

直に触れる温もりが暖かかった。

「嘘。」

「そう思うか?」

「まぁね。」

いつもは男勝りな奏が見せる女らしい一面。

いつも誰よりも傍にいた彼女を何時しか本気で愛していた。

ただ、想いを伝えるのは難しい。

奏は人を好かない。

表では大雑把な性格で多くの隊士から尊敬される存在であるが本心は其処にはない。

嘘が上手な女だ。

誰より嘘が上手で器用な女。

そして誰より脆い。

「妻にならぬか?」

「アタシが?」

「それ以外に誰がいる?」

「前の奥さんの代わり?」

「違う。」

「じゃあ子孫を残すため?」

愛のない結婚なんてごめんよ、と彼女は苦笑する。

「私は本気だ。」

幼馴染の彼女の本心を知りたかった。

嘘の裏にある脆さを支えてやりたかった。

「愛してるとでも?」

「ああ。」

「冗談でしょ。」

「本気だと云っておるだろう。」

「アタシ嘘吐きなのよ?」

「だから?」

「嘘吐きでずる賢いの。それでもいいの?」

「女とはそう云う生き物であろう?」

「前の奥さんはもっと真っ直ぐで純粋だったでしょ。」

「緋真は特別だ。」

「そう。」

奏は馬鹿ね、と笑う。

「嘘吐きなら嘘を吐く前に口を塞いでしまえば問題なかろう。」

白哉は奏へ深い口付けを落とした。

「ホント馬鹿ね、不幸になるわよ?」

「お前がいればそれでいい。」

「アタシ、貴方を信じてもいいのかしら?」

「ああ。」

「本当に?」

「無論だ。私がお前を幸せにする。」

「貴方も不幸になるのよ。」

「それならそれで構わん。」

「なら貴方はアタシの味方でいてくれる?」

「永遠にな。」

「貴方を信じてみるわ。これが最初で最後。」

「愛している。」

どちらともなく指を絡める。

今宵二人の手が離れることは無かった。




嘘吐きで器用なアタシ

    と

真っ直ぐで不器用な貴方

貴方は私の世界で唯一の味方。

そう信じてみるわ。

               完
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