□雨と紅茶のラプソティー
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電車から降り人込みを縫うようにして駅のホームを抜けた。

先程まで晴れ渡っていた空とは裏腹に鈍色の雲が空を覆い雨が静かに降っている。

都会の天気予報なんて当てにならないと思いつつ傘を買うべきか思考を巡らせた。

雨は一層強くなりつつある。

濡れるのは確実かと思い溜息をついた。

「傘をお貸ししましょうか?」

ふいに声を掛けられ振り返れば知っている顔がある。

「惣右介さん!!!」

藍染惣右介、彼とは会社の取引先で出会った。

何度か食事を交わすうち互いに惹かれるようになり今では恋仲になっている。

「奏の事だから傘は持ってないと思ってね、そうしたら案の定だ。」

「私の事だからって惣右介さんったら酷い。」

少し頬を膨らませれば惣右介は微笑んだ。

「でも私が来なかったら奏は今頃濡れ鼠だったよ?」

「それはそうだけど…」

惣右介の家はもう一つ先の駅の先にある。

わざわざ奏の為に一つ前の駅で奏を待っていたのだ。

「今日は家に来るかい?」

「自分の家に帰ります。」

「明日は休みだろう?私の家においで。」

惣右介は奏を引き寄せる。

「結局拒否権なんて無いくせに。」

「勿論だよ。」

惣右介とぴったりくっつくようにして傘に入りタクシーに乗り込んだ。

「着替え惣右介さんの所にあるよね?」

「ああ、確かあったと思う。」

「この際、惣右介さんの家に住もうかな。」

悪戯っぽく笑ってみる。

「私は賛成だよ。今日からでも大歓迎さ。」

「今日は泊まるだけ。引っ越すなら荷物を片付けなきゃ。」

「なら明日手伝いに行くよ。」

久々に車を出そう、と惣右介は微笑んだ。

「じゃぁお願いしようかな」

そんな会話をしているうちに惣右介のマンションの前にタクシーが止まる。

都会の大きなマンションは独り暮らしの惣右介には余るほどの広さだ。

「おじゃまします。」

遠慮がちに玄関に入ればただいまだよ、と惣右介が云う。

「じゃぁただいま」

夕食は惣右介が腕を奮い作った。

男にしては上手すぎるほどの料理に感心しつつ箸をすすめる。

「奏」

「んー何?」

「私の妻にならないかい?」

「え…」

「結婚しよう。」

何処から取り出したのか指輪を奏に差し出す。

「えと…」

「嫌かな?」

そんな事ないと云わんばかりに首を横に振った。

「私でいいの?」

「勿論。」

「嬉しい!!!!」

惣右介は奏の手を取り指輪をはめる。

「ぴったりだね。」

「ホントだ。」

照明に手を翳して指輪についた宝石を輝かせてみた。

「奏」

テーブル越しに身を乗り出して口付けをする。

「え…」

ようやく脳が惣右介のした行為を理解したとたん顔が熱くなるのを感じた。

「さて、紅茶でも淹れようか。」

明日は忙しくなるぞ、と惣右介が微笑んだ。

                 END
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