□Moon Right
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残業を終え、隊舎廊下の窓から空を見た。

闇に浮かぶ満月。

それは強く、そして儚く見える。

視界がじんわり滲み月の輪郭がぼやけた。

「月へ戻りたいのか?」

すっと耳に入ってきた聞きなれた声。

反射的に振り替えれば自隊の隊長、朽木白哉がいた。

「朽木隊長…」

「お前は月の国の姫だったのか?」

「そんな訳無いじゃないですか。」

普段真面目な白哉のちょとした冗談に自然と笑みがこぼれる。

「では、何故泣いている?」

「分かりません。でも、」

「でも?」

「もしかしたら月に帰りたいのかもしれません。」

「そうか…。」

微笑んだ白哉の顔が月明かりに照らされ一層美しく見えドキリとしてしまう。

「この世界は嫌か?」

空へ視線をずらし、月を見上げる。

「さぁ。ただ人は嫌いです。」

「何故?」

「汚れているから。」

「成程。人間ほど恐ろしいものは無い、と言うしな。」

白哉も空を見上げた。

「奏…」

月が雲に覆われ世界が一瞬闇へ沈んだ。

「っ…」

触れるだけ口付け。

月の光が世界へ届く頃には唇は離れていた。

「人とは愚かなものだ。しかし、良い面もある。私と人の世界で暮らしてみる気はないか?」

「…?」

「お前が月の国へ帰ると云うなら、私もついてゆくぞ。」

「月には帰れませんよ。方法がないから。」

「そうだな。」

「他に選択肢は?」

「無い。」

「では、貴方の所へ参りましょう。」

「清家に話をせねばな。月の国の姫を妻にもらう、と。」

「そうですね。」

2人は顔を見合わせ笑った。

                  完
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