□ウサギの生態。
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時計の針が動く音、それと筆が紙の上を滑る音。

聞こえてくるのはそんな音だけ。

ここは執務室。

そこには当然、隊長の朽木白哉と副隊長の阿散井恋次がいる…ハズだ。

「白哉、そろそろ降ろして欲しいんだけど」

白哉の膝の上には彼の妻であり三席の奏が乗っている。

「何故?」

「何故ってアタシ忙しいんだけど。」

「私も忙しい。」

白哉の視線が書類から動く気配はない。

右手のみで器用に書類を書き左手は奏の腰へ回されている。

「あ、そう。んじゃ離して。」

「ならぬ」

「どうして?」

「無理なものは無理なのだ。」

「…でも恋次君が困るでしょ?」

金持ちのお坊ちゃまは随分と我侭だ。

「恋次は困らぬ。」

最近の生活はいつもこんな感じ。

少し前に白哉が恋次に奏と過ごす時間が足りないと云ったところ、

んじゃ隊長の傍にずっと置いとけばいいじゃないですかと助言を受けた結果今に至る。

1日程度ならまだしも数日もこの状態が続くと流石の奏も怒りが増してくる。

「でもアタシは忙しいの。早く降ろして。」

大きく溜息を吐いた奏を白哉は右手の筆を置きじっと見た。

「しかし…そしたらお前はここから出て行くのであろう?」

「そりゃ、ね。」

捨て犬のような目でこちらを見つめられれば奏の決意が揺らぎ困ってしまう。

「私はお前がいぬと死んでしまう。」

お前はウサギかと奏は苦笑した。

しかし怒りは増すばかり。

「んじゃ死んでもいいから離して。」

「無理だ。」

「なんでよ?」

「まだ死にたくない。」

馬鹿だ。

この人は本当に馬鹿なのだ。

「白哉ってもしかしてウサギ?」

「ウサギではない。人間だ。」

「それは知ってるよ。」

「それでは何故そのようなことを聞く?」

「性格よ。性格がウサギみたいなの。」

じっと紫の瞳が奏を捕らえて離さない。

「知らぬ。しかし、私はお前がいぬと死んでしまう。」

「淋しくて?」

「ああ。」

もう仕方が無いと思う。

「今日だけね。」

「ならば私は明日死んでしまう。」

奏はまた溜息を吐いた。

「アンタを好きになったアタシは馬鹿ね。」

「しかし私ははお前を愛しているぞ?」

「分かってるよ。全く、もう」

白哉の真っ直ぐな瞳に奏は小さく微笑んだ。


・・・
その頃隣で一人淋しく書類を片付けていた恋次は机の引き出しから一冊の冊子を取り出した。

表紙には”朽木白哉報告書”と書かれている。

中を開き何も書かれていないページに書き込んだ。

『朽木隊長の生態はウサギと似ている』と。

                完
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