多種

□二人傘
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先程まで晴れ渡っていた空から期待を裏切るように雨を降らせた。

「あ…白哉傘持ってってない。」

今日は非番の奏は部屋で転がりながらふと思い、口にする。

「傘届けにいこう。」

畳から起き上がり屋敷を出た。

傘をくるくる回しながら道を歩く。

綺麗な着物を着た奏は此処では浮いて見えた。

奏が白哉の妻になってからどれくらいたっただろうと考えれば片手で数えられるくらいしかない。

「あ…」

六番隊舎前で梅の木を見つけた。

花はもう殆ど散っている。

梅雨だ、と再度実感した。

雨の中一人。

六番隊に出入りする隊士が数名いたが彼女へ声をかける者はいなかった。

「奏?どうしたのだ、今日は非番であろう?」

玄関の雨乞いから唯一声をかけた男。

白哉だった。

「あ、白哉。傘、持って行かなかったでしょ?」

「ん、ああ。」

「終わったの?」

「うむ。」

「丁度良かったね。」

「そうだな。」

わざわざ合わせて来たのだ。

これは奏の計算。

「あ!!!恋次君。」

「あ、奏さんお疲れ様です。」

「お疲れ様。そうだ、恋次君傘持ってきて無いでしょ。」

「え、なんで分かるんすか?」

「だと思った。白哉もだから。」

「なるほど。」

恋次は頭をかいた。

「傘貸してあげる。2本あるし。」

「あ、ありがとうございます。」

奏が差し出した傘を受けとり恋次は傘をさして歩き出す。

そして振り返る。

「隊長お疲れ様でした。奏さん傘お借りします。」

頭を下げてまた歩き出した。

「うむ。」

「気をつけてね」

「さて、私達も帰るか。」

「うん。」

二人で傘に入った。

なるべく奏が濡れないよう奏の肩を引き寄せる。

「そういえば、先程何をみていたのだ?」

「さっき?ああ、梅の木。花ちっちゃってたから。」

「梅雨だしな。」

「そうだね。」

奏は少し淋しそうな顔をした。

「…花はまた咲く。」

「うん。」

奏はくすりと笑う。

「よかった。」

「何が?」

「奏は笑った方が似合う。」

恥ずかしそうに奏は空をみた。

黒い雲は消え、虹が掛かっている。

「…手、繋ごう?」

「私も今そう思ったところだ。」

虹は空へ溶けていった。

                完
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