多種

□鈍色
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先程小降りの雨が降り始めたと思ったら急に雨脚が強くなってきたのだ。

予想通りの展開。

手元にあった伝令神機が鳴った。

「はい。」

『もしもし、惣右介?迎えに来て頂戴。今すぐよ?場所は…』

「大体貴女のいる所は分かります。5分もあれば着くので待っていてください。」

『分かった。』

伝令神機を閉じると副隊長の雛森が不思議そうな顔をしている。

「どこかへ行かれるのですか?」

「ああ、ちょっとね。どうかしたかい?」

「あ…いえ、お風邪ひかないでくださいね。」

藍染はふわりと笑って見せた。

「有難う、雛森君。」

「はい!!いってらっしゃいませ。」

雛森の言葉にもう一度微笑んでから執務室を出る。

玄関に出ると雨脚は更に強くなっていた。

あの人が風邪をひくと大変だ、と思い足早に歩く。

「随分早かったじゃない、惣右介。」

「急ぎましたから。」

「そう。家まで送って。」

「分かってますよ。」

会話と云われるものは全く無かった。

ただ奏が濡れぬよう傘を翳すだけ。

行き交う死神たちは藍染が召使のように見知らぬ女性に使えているのが気になっているようだった。

「ここでいいわ。」

「ここですか?」

「ええ。雨もやんだようだし。」

気付けば空は晴れ夕焼けに染まり始めている。

奏は少し背伸びをして藍染へキスを落とす。

これはいつも奏が決まってすることだった。

藍染が奏に引き付けられた理由の一つであるかもしれない。

軽いキス。

その唇が離れかけた瞬間藍染は奏の顎を押さえた。

「っ!!!」

そしてもう一度口付ける。

深く呼吸を奪い取るように。

引き離そうと突っ張った奏の腕はいつの間にか力を失い藍染の隊主羽織を掴んでいた。

そして唇を離す。

「何のつもり?」

奪われた分の呼吸を取り戻すように大きく呼吸をする。

そして鋭く睨んだ。

しかし、下から睨まれても藍染が臆することは無い。

「貴女は無防備だ。僕だって男なのですよ?」

「それ位分かってるわ。」

「分かっていませんよ。」

藍染が足を踏み出す。

奏もそれに比例するように後ずさる。

数歩下がったところで奏の行く手は壁に拒まれた。

「何が目的?」

「貴女、でしょうか。」

奏は逃げ場が無い、そう感じ藍染を突き放そうとしたがその腕は藍染に捕らえられてしまう。

そして奏の腕を上で一つにまとめ右手で押さえ込み壁へ押し付けた。

「放して。」

「なぜ?」

「こんなことをされて喜ぶ人はいないでしょう?」

「僕に無防備にキスをした癖にですか?」

「それは…」

「報酬とでも言いたげですが、僕にとってそれには程遠い。」

じっと奏の瞳を見つめれば彼女はそっぽを向く。

逃げ場など無いのに、と藍染は溜息を吐き奏の首筋に赤い花弁を散らした。

「ちょっと」

反論の時間など与えず左手で顎を掴み深く口付ける。

先程よりも長く。

時が止ったようにも錯覚する程に。

「これで満足?」

唇を離せば間発入れず奏が口を開いた。

「いいえ。」

「じゃぁ犯すの?それとも殺す?」

「どっちでもないですよ。」

「じゃぁ・・・」

「僕の妻になってください。」

「は?」

「これが代償です。貴女が妻になれば僕はこれからも貴女の手伝いが出来る。仕事も空けやすくなりますし。」

「断ったら?」

「貴女は断りません。ああ、いや断るなんて事はさせません。」

「強引ね。」

溜息を落としながら奏が苦笑する。

「貴女ほどではありませんよ。」

「どうかしら。」

二人はどちらとも無く口付けをする。

「貴女の白無垢姿を見るのが楽しみだ。」

「惣右介だけには見せないわよ。」

「隠れてでも見に行きます。」

可笑しそうに笑い合い藍染は奏の手をとって歩き出す。

「家まで送りますよ。」

「あら、それはどうも。」

「仕事が終わったらまた来ますから。」

「晩御飯作っておくわ。」

玄関先、別れ際のキスをした頃灯篭が鈍く明かりを灯していた。

              完
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