□嗚呼、力無き日々よ
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梅雨明けが近いのだろうか。

段々と暑さが増し、風が涼を運んでくる。

屋敷の縁側で庭を眺めていた。

「朽木隊長。」

ふと振り返れば同隊三席の奏がいる。

彼女は恋次の代行、伝達役をしているため朽木邸に無断で出入りすることが出来るのだ。

無論、白哉の信頼も厚い。

「どうした?」

「阿散井副隊長から先日の任務の書類を提出し終えたとの報告を承りました。」

「そうか。」

「では、私はこれで。」

「少し涼んで行かぬか?」

頭より先に言葉が出た。

「では、少しだけ。」

少し悩み、奏は小さく微笑んだ。

一時間程雑談を交わし、奏は隊舎へ戻ろうと立ち上がった。

「奏」

白哉も奏につられるように立ち上がる。

踏み出した奏の腕を引き止めるように掴んだ。

「なんでしょう?」

今度は体が頭より先に出た。

抑制していたはずなのに。

気が付けば奏の呼吸を奪っていた。

「済まぬ。」

今更何を、と思う。

「勘違いさせないで下さい。」

奏の頬を涙が伝っていた。

彼女はそれを隠すように走り去っていく。

白哉は奏の去っていった廊下を見つめ血が出そうなほど強く拳を握った。





嗚呼、力無き日々よ

力無き私は貴方を悲しませてしまった。

この思いを伝えたとて守る自信が無かったのだ。

                 完
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