□繋
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奏は六番隊隊舎の隊主室で長椅子に寝転がっていた。

「何故此処に居る?」

「んー?暇だから。」

「職務はどうした?」

「やってきた。」

何をするわけでもなく奏はただ天井を見上げている。

たまに手を伸ばしてみたりして。

「奏」

「んー?」

「休憩するか。」

「りょーかい。お茶淹れてくる。」

とびきり美味しいやつをね、と自慢げに笑い奏は部屋を出て行った。

筆を置いて手元にあった書類を整える。

奏は白哉の恋人だ。

所属は11番隊。

やちるを除いては11番隊唯一の女性死神である。

「お茶淹れてきたよ。」

「うむ。」

性格が少しがさつなのが玉にキズだ。

テーブルに置かれた湯飲みの位置は向かい合っている。

が、白哉は奏の隣へ腰を下ろした。

「珍しいね。」

「何がだ?」

「白哉が隣に座るなんて。」

「少しでも愛するものの傍に居たいと思うのは当たり前であろう。」

今日は恋次が非番だ。

「照れるから止めてよ。」

変な事云わないで、と奏が擽ったそうに笑う。

「私は真面目だ。」

奏は思い出したように湯飲みを置いた白哉の手をとった。

「どうした?」

「目、瞑って。」

「…」

仕方なく目を瞑れば奏は何処から取り出したのか糸で小指を結んでいるようだ。

「いいよ。」

何をされたのかと目を開ければ案の定小指が糸で結ばれている。

その糸をたどれば奏の小指へと繋がっていた。

「何だ?」

「小指を結んでみたの。」

「それは見れば分かる。何故?」

「えっとね、アタシと白哉が離れないよう…にかな。」

「こんなに近くに居るのにか?」

奏は小さく頷く。

「不安か。」

「分かんない。」

気が付けば奏は手を握り締めていた。

その拳は小さく震えている。

「私はここにいる。」

白哉は奏の拳を開き自らの手を重ね指を絡ませた。

繋がった糸が重なった手からたるんでいる。

「うん。」

「奏もここにいる。」

「うん。」

目の前にいる奏が小さく見えた。

小柄なだけに、より一層強く。

抱きしめようか、と思った。

だがそれでは足りない気がする。

愛の言葉を囁こうか、と思った。

それでも足りない。

何をしたら奏の不安が満たされるのか。

「忘れるな。私は奏と共にある。」

「うん。」

奏を向き合うように膝に乗せた。

抱きしめて、奏の肩に頭を乗せ髪に顔を埋める。

一息ついてから顔を上げ奏へキスをした。

それでも足りなくて。

何度も何度もキスの雨を降らせるように。

「くすぐったいよ。」

奏は笑った。

愛おしくて愛おしくて。

この愛をどうすれば伝えられるのか分からない。

溢れるような愛を。

伝えきれないほどの愛を。

もどかしくてたまらない。

「何処へも行くな。」

「うん。」

こんな言葉では事足りないのは分かっている。

それでも伝えたいと思う。

「愛している。」

繋いだこの手を繋がったこの絆を離さないように。

離してしまわないように。

強く強くもう一度抱きしめた。

                 完
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