□絡憂
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太陽が夏の空へ沈んでいく。

7時をまわっもなお、空は赤い。

奏は四番隊の病室からそれを見ている。

病室は静まりかえっていた。

見舞い者用の椅子には自隊の隊長の白哉が座っている。

「済まぬ。」

「何がですか?」

白哉が突然口を開いた。

「お前を護りきれなかった。」

「あれは私の独断です。隊長の所為ではありません。」

「済まぬ。」

会話がまた途切れる。

お互い何を話していいのか分からないのだ。

先日奏は怪我を負った。

六番隊に久々に回ってきた大任務だった。

白哉は恋次に隊を任せ、三席の奏と平隊士数名を連れて任地へ赴いたのだ。

そこで足に怪我を負った平隊士を庇うべく虚との間に立ち傷を負った。

完治までには鬼道を使っても一週間はかかると言われている。

「傷はまだ痛むか?」

「ええ。でも慣れました。」

「そうか。…そろそろ休んだらどうだ。」

「そうします。」

白哉が訪れたのが丁度夕食を終えた頃だったので既に一時間以上経っていた。

白哉はベットの横に手を掛け、元の角度に戻してやる。

「ありがとうございます。」

「構わぬ。」

奏は肩がけを畳み傍らへ置き、横たわった。

「隊長?」

「どうした?」

「もう少しだけ、此処にいてくれますか?」

「うむ。しかしこのままでは風邪を引く。」

奏の足元に畳まれている布団をかけてやる。

「すいません。毎日お見舞いに来てもらって。」

「お前が気にすることは無い。」

「ありがとうございます。」

いつも落ち着きの無いくらい明るいはずの奏が落ち着いているとなんだか憂いているように見えた。

何も云えなくなる。

奏は目を伏せた。

布団から出た手があまりにも白く装飾品のようにも見える。

「隊長は護りたいものがありますか?」

目を伏せたまま奏が言った。

「護りたいもの、か。沢山ある。」

「沢山ですか。」

「うむ。隊も妹も家も、他にも沢山だ。」

「護りたいものを護るにはどうすればいいんでしょうか。」

「力をつけることだろうか。あとは…」

「あとは?」

「決断することだ。」

「決断することですか?」

「ああ。力をつければ決断せねばならない時が多々出てくる。」

「正しい答えを私は出せるでしょうか。」

「それは力をつければ自然と身につくと思うが。」

「そうですね。」

「雪野、お前が護りたいものは何だ?」

「私が護りたいもの…まだ分かりません。」

「そうか。」

「未熟ですね。」

「そんなことはない。」

「そうでしょうか?」

「後にきっと見えてくる。私もそうだった。」

白哉は奏の手を取り指を絡める。

突然のことに奏は伏せていた目を開いた。

「朽木隊長…?」

「少しこのままで良いか?」

「…はい。」

指を絡めたのとは逆の手で奏の髪へ触れる。

「ゆっくり眠れ。お前が眠るまでは此処に居る。」

「そんな、申し訳ないです。」

「迷惑か?」

「そんなことはないです。」

「ではよかろう。私がこうして居たいのだ」

奏は静かに目を伏せた。

「明日は非番だ。昼過ぎには此処へ来る。」

「折角の非番ですよ。お屋敷でゆっくりしてください。休息も大切です。」

「奏と居たいのだ。」

「私とですか?」

「うむ。午前は四大貴族の会合があるのだ。貴族と話すのは気疲れする。」

「隊長が気疲れですか。」

「ああ。お前と居ると心が安らぐのだ。」

「それはよかったです。」

「明日は土産話を持ってくる。あまり面白くはないかも知れぬがな。」

「楽しみにしてます。」

奏は目を伏せたまま微笑んだ。

自分の思いは伝わっただろうか、と思う。

ただ、絡めた指に奏がかすかに力をこめていた。

                 完
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