□タイムリミット
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六番隊隊舎の隊主室、そこには朽木白哉と雪野奏がいた。

「何時までここに居座るつもりだ?」

「いいじゃない。どうでも。」

執務机に向かう白哉とは対照的に奏は長椅子に横たわっている。

「全く。また失恋か?」

「フッたのよ。アタシが。」

「結局は失恋であろう?」

「まぁね。」

「前の男の欠点は?」

「財はあるけど力不足ってやつ。弱っちいのよ、彼」

「ほう。」

「何よ。」

「なんでもない。」

白哉が筆を書類へ走らせる音のみが空気を震わせた。

「にしても何時までやってんの、それ。」

書類の山を目で指す。

「風邪が流行っていてな、その者達の書類だ。」

「他の連中にやらせればいいじゃない。」

「他の隊士にも仕事は回しておる。その余りだ。」

「手伝ったげようか?」

気が向いたのか奏が白哉の書類を覗きにきた。

「珍しいな。…それより次の犠牲者は誰だ?」

「さぁね。それに犠牲者じゃないわよ。」

ただの恋人よ、と奏は眉を寄せる。

「3月もしたら捨てられるのだからお前の犠牲者であろうが。」

「うっさい。」

「私にすればよかろう。」

「アンタは無理。」

「財も力もあるのにか?」

「男ってのは理想にぴったりでもいけないのよ。それに、アンタは…」

筆を置いて奏を抱き寄せた。

必然的に奏は白哉の膝の上に座ることになる。

「私が何だ。」

「アンタはお友達。」

「友人だと駄目なのか?」

「アンタが恋人になったら友達が減っちゃう。」

「どういう理屈だ。」

「こういう理屈よ。」

不機嫌な顔をした奏へキスを落としてみた。

「突然何よ。」

気持ち悪い、と死覇装の袖で口元を拭う。

「随分な云われようだな。」

「あっそ。」

「私の何処に不満があるのだ?」

「全部。」

「今から満足させてやろうか?」

「冗談でしょ。」

奏の長い髪の合間から覗くうなじに口付けを落とせば、小さく肩を震わせた。

「アンタ女捕まえるの上手くなったでしょ?」

「元々下手ではないと思うが?」

以前は奏を抱き寄せても人に慣れない猫のように逃げられていたが今では扱いも大分上手くなったと思う。

「練習でもした?」

「そのような練習を誰とするのだ。」

「誰かいるでしょ。」

「いるわけが無かろう。私にはお前だけだ。」

「私はアンタの物じゃないけど。」

身を捩って嫌な顔をしている奏の死覇装の襟を肌蹴させ、ギリギリ隠れる鎖骨の下へ所有印をつけた。

「これで私の物だ。」

「何してくれてんのよ。痕消えにくい体質なのよ?それに傲慢よ。」

「貴族とは傲慢なのだ。」

「…。」

「こうでもせねばお前は私を見ないのであろう?」

「見てるわよ。ずっと前から。」

白哉の問いかけに消え入りそうな声で呟く。

「意味が見えん。」

「何でも無いわよ。」

「はっきり云え。気になるであろうが。」

「アンタには理解の外だわ。」

「はっきり云わねば犯すぞ?」

「…。別に大したことじゃないのよ?」

「ほう?」

「ただ、本気で好きになったら駄目なの。」

「何故?」

「死んだ時前に進めなくなる。」

「だから愛せない、と?」

「そう。悲しみは戦士にとって大きな足枷だわ。」

「死なねばよかろう。」

「人なんて何時死ぬか分からないじゃない。」

「私はお前より早く死なぬ。」

「何で言い切れるの?」

「お前を私が護るからだ。」

「先立たれたらアタシはどうすればいいの?」

「お前を残しては逝かぬ。」

「信じられると思う?そんな言葉。」

「仮に死んだとしても化けて出てくればよいのだろう?」

「アタシ達はもう既に幽霊ですけど。」

「それでも化けて出る。」

「どうやって?」

「愛の力だ。」

「馬鹿ね。」

目が合い互いに口角を上げる。

いつの間にか執務室に落とされた一つの椅子に座った二つの影が混ざり合っていた。

                  完
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