□胡蝶
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闇が空を支配する。

梅雨と夏の境目の季節。

なんとなくじっとりする様な暑さに喜助は床に付けずに居た。

開いた窓から空を見上げる。

窓の縁で頬杖をつき反対の手には扇子が握られていた。

風の吹く気配の無い空気を吹き飛ばすように
喜助は扇子を扇いだ。

扇子により吹いた風が喜助の砂色の髪を揺らす。

そんな行為を繰り返した。

隣の部屋では愛しい姫が眠りに着いている…はずだった。

「喜助?」

後ろから喜助を呼んだのは紛れもなく眠っているはずの姫君。

「奏サン?眠れないんスか?」

小さく頷く彼女を喜助は改めて愛おしいと思う。

「こっちいらっしゃい」

奏は喜助の隣に座る。

奏の髪が揺れるとシャンプーの匂いがした。

会話は無い。

沈黙

お互い何もせずただ空を見上げた。

喜助は奏を抱きしめる。

「どしたの?」

「何でも…」

ただぎゅっと抱きしめた。

愛おしくて

愛おしくて

愛おしくてたまらない。

今が

この瞬間が

永遠に続けばいい

そう願った。

「奏愛してます」

そんな喜助の言葉に奏はクスリ笑った。

「知ってるよ」

「笑わないで下サイ」

「笑ってない」

「笑いました」

「笑ってない」

何度も同じ言葉で押し問答をする。

「愛してる」

そこに終止符を打ったのは奏だった。

「知ってます」

今度は逆の立場になった。

でも喜助は笑わない。

またの沈黙

それでもいい

そっちの方がお互いの

温もりを確かめ合えるから

二人はまた空を見上げた。

    
       完



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