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□融解
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融解
真子は五番隊の隊長で、金髪が長くて、歯を見せる笑い方をして、ちょっと意地悪で、さかさまが得意。
恋人なのに、私が知っているのは所詮この程度だ。
私にあるのは、死神に至るにはあまりに及ばない僅かな霊力と、真子がたまあに来るための居場所だけ。
霊術院の院生や、ひまな死神がふらりと立ち寄るような、小さな甘味屋でしかないそこに、真子は好んでやってきてくれる。
「なまえ」
「真子、どうしたの、まだ早いのに」
申の刻を過ぎたころ、つまり、まだ日が暮れきらない夕方。
看板にしようと暖簾に手をかけたのに、先に取られてしまった。
「相変わらずちっこいなァ」
「真子がでかいの」
「怒んなや、ほれ、暖簾」
「…ありがと」
入れてや、と言われて暖簾ごと中に招き入れた。
灯りを僅かにつけて、真子は奥から二番目の椅子に腰掛ける。
そこが真子のお気に入りで、私はその向かいに失礼した。
大吟醸を差し出され、私は肩をすくめてぐい飲みを取りに行く。
真子が今こうしているきっかけなんてささいなことだ。
忘れてもいいくらいに昔、飲みすぎた真子を介抱した。
見ず知らずだったのに、その後隊長羽織でお礼を持ってきたからびっくりした。
それだけ。
「飲み過ぎちゃだめだからね」
「保証はできひん、なまえおるし」
「もう…」
「ええやろ」
いいから飲ませと言わんばかりにガラスのぐい飲みを持ち、こちらに向けてくる。
やれやれと私は瓶を持ち上げ、礼儀正しくお酒を注いだ。
「これ、本当にいいやつじゃない。いいの?」
「やかまし。お前と飲みたかったんや」
「…どうも」
看板になった甘味屋の椅子に真子はすごく不自然なのだけど、私は向かいに座ってご返杯をいただいた。
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