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□シノニムアントニム
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シノニムアントニム
平子真子が隊長になり、やがていけ好かない副隊長がつき、髪の長さに比例して自らに箔をつけていった時。
平子の思う人はいつも同じだったといえば、お笑い草になりそうな話だ。
平子自身それは知っていたし、何より己が笑ってしまうような、淡く消えそうな恋であったのだ。
(…あほらし)
死神ですらない、女。
恐らく彼女よりも、平子は数百年を多く生きている。
ひっそりと小さな飲み屋を、彼女は祖父と営んでいた。
その祖父が死亡、転生に向かい、彼女は飲み屋を一手に引き受けた。
平子の行きつけの店であった。
彼女の名前がなまえだと知ったのも、至極最近のことであった。
(あほらし、ほんま)
がらりと、今日も引き戸を開けてしまった平子は、なまえの姿を見つけてカウンターに座る。
常連となってしまった平子のことをなまえも気づいて近寄ってきた。
「こんばんは、平子さん」
「おう、熱燗と今日の魚で頼むわ」
「はい、今日はカレイのあげ煮ですよ」
「うまそうやな」
くるくるとよく働く娘だった。
荒れてはいたが小さくてしなやかな手は、平子好みの料理をぱっぱと出してくれる。
やがて熱燗と共にカレイが出されると、その脇に小さな小鉢が置かれた。
「何や、これ。頼んでへんで」
「おまけです。平子さん、よく来てくださるから」
「…おおきに」
とくべつ、と笑うなまえはやけにまぶしかった。
出された小鉢にはめかぶと梅の和え物が入っていて、美味しかったはずなのに平子はよく味わえなかった。
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