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□精巧到底
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精巧到底[セイコウトウテイ]
バレンタインデー。
西洋では男性から女性にプレゼントを送る日だけど、日本ではすっかりチョコレート会社の商戦の日になっている。
男性陣のステイタス明示の日。
おそらく女性からの告白率が一番高い日。
そうして私が、少し寂しくなる、日。
「平子くん、これ、チョコなんだけど…」
「あの、私も作ってきたんだけど、」
「お?なんや、モテモテやな」
真子がモテる、ってわけじゃない。
と思う。
ただ女の子にちゃんと優しくて、なぜか礼儀正しいのにユルくて。
そういうところに「チョコあげようかな?」って子がけっこういて、それに紛れ込むように本気の子がいる。
(一応彼女だから、気になる)
私だってちゃんとチョコを作ってきた。
ちょっとオシャレで、気取ってて、それでも失敗の少ない真子みたいなガトーショコラ。
でも彼女からの、恋人からのチョコなのに、大勢のうちのひとつになるのが怖かった。
真子のステイタスの一部になってしまうことが厭だった。
「何しとんねんなまえ」
「え、あ、真子…」
「帰るで」
「…うん」
ほれ、と差し出した手を握れば、ちゃんと見せつけるみたいに指を絡めてくれた。
優しくてあったかい、真子の指が私の手の甲を何度もなぞった。
「荷物、かし」
「ありがと、でも、自分で持つ」
「…そか」
鞄の下で息をひそめるガトーショコラを思って、私は鞄をきゅっと握った。
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