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□タイトロープ
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タイトロープ








真子は、いつの間にかばっさり髪を切っていた。

髪が欲しいと言ったら、古風な女だと笑われた。


動くにはあまりに邪魔すぎる髪ではあった。

またあれだけの金髪を伸ばしていたら目立つことも分かっていた。



(でも、好きだったのに)



血に映える金が、揺れる髪の扇形が、その金髪を触ると気持ち良さげに目を細めるのが。

もう出来ないと思うと泣きたくなる。

真子が隊長という地位から見切りをつけ、これから、やがて始まる戦いのために必要だったと知っていても。



「なまえ」

「…真子」

「何物思いに耽ってんねん」

「…そういう時だってあるの」



六車九番隊の一番下位席官だった私。

物語を語るならば出演できないほどに弱いけれど、仮面の軍勢として生きることを強いられた。

そんな、真子の恋人。

真子の髪が長かったころからの恋人。



「まだお前あのこと拗ねとんのか」

「…違う」

「やっぱり拗ねとるやないか」

「…違うもん」



真子の髪はもう顎までない。

相変わらずよく手入れされた金髪だけれど、あそこまでの長さはない。

なんだか、失恋した人みたいだ、なんて思ってしまうから。

私への思いを断ち切られてしまったようだったから。



(真子、ちゃんと、まだ私のこと…好き?)



真子の愛の確信が欲しい。

手を、握って欲しい。



「なまえ」

「…何」

「こっち来、ギュッてしたる」

「…いい」

「遠慮はいらんて」

「へ、きゃあ!」



真子は手を引っ張って、私を抱きしめてくれた。



(私は、…好き)



せめて私は少しは素直に、真子の首に腕を回した。









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