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□I・GUN・DOLL
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I・GUN・DOOL








この私にそんな価値などあるのだろうかと思ってしまうほどに、隊長は私に甘い。

とても、甘い。



「何やってんねや」

「た、隊長…これは先月の虚討伐の集計です…」

「こんなん他の奴にやらせ」

「そ、そういうわけには…」

「お前はお前にしか出来ひんことあるやろ」



副隊長に私がやっていた書類を投げ出して、平子隊長は隊首室に連れて行ってしまう。

ああ副隊長ごめんなさい。

あとできちんと謝らないと。

…謝ったところで「いつものことだよ」と言われてしまうのだろうけれど。



「たいちょ…」

「お前はここにおれ」

「でも…」

「それが仕事でええ」



平子隊長は私を傍らに立たせると、さっさと書類を取り出してしまった。

癖はあるけれど流麗なその文字が、ぐりぐりと事実を切り取っていく様を眺める。

これでは職務怠慢だと知っていても、平子隊長は私を離してくれない。



「なまえ」

「はい、隊長」

「ん」



腰を引き寄せるのは口付けの合図。

押し付けるだけのキスを数回したあと、また隊長は書類に向き直ってしまう。


こんなだけど、付き合っているわけじゃない。

ただの暇つぶしか、そんなところだろうけれど。

でも、隊長が好きだ、私は。

ここに来る、ずっと前から好きだった。

五番隊に志願して、入れた時の泣きそうな気分が忘れられない。



「なまえ」

「、はい」

「俺以外のこと考えとったやろ」

「…いえ」

「…まあええわ、なあ、もう一回」



はむ、と唇を合わせるのは、隊長にとってはお遊びなんだろう。

ああ、とても、切ない。








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