月
□湯けむり旅情【前篇】
1ページ/6ページ
「ねぇ桜ちゃん、今度の土日なんだけど温泉に行かない?」
いつもと同じように夕飯を食べていた時にふと総司が温泉に行きたいと言った。
普段どこかへ行きたいときは大抵、桜が提案することがほとんどである。
「温泉ですか?」
まさか総司から“温泉”という言葉が出るとは思わず、桜は驚いた表情を見せた。
「うん。左之さん夫婦が前に行ったみたいですごく良かったんだって。
あと、女性の肌にすごく良いみたいだよ」
「わぁ〜!そうなんですか?温泉行きたいです!」
総司はいつも桜の意見を優先にしてくれて、旅行に行く予定を立てる時はいつも総司さんはどこに行きたいですか?と聞いても、
「僕は桜ちゃんと一緒ならどこでもいいよ」と言う。
なので、この時始めて桜は総司が行きたいと言ってくれた事に嬉しさを感じていたのだ。
「ふふ。喜んでもらえて嬉しいな。じゃあ予約しとくね」
「はい!お願いします!」
総司からの思いがけない旅行の提案に嬉しさで一杯の桜は、
ニヤリと総司が笑みを浮かべたのを桜は見ていなかった…
.