event/頒布用sample

□パフ
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 気付くとずいぶん薄暗くなっている気がして、紗雪は段ボールに荷物を詰める作業の手を止めた。時間を確認しようと壁掛け時計を見ると、そこには時計があった跡が日に焼けて残っている白い壁があるだけだった。
そうだ。もう時計は外してすでに段ボールの中だ。
この部屋を出ていく。その現実が急に胸に迫る。切ない様な気持がこみ上げるが感傷に浸るのはまだ早い。この部屋を引き払う為にはやらなくてはならない事がまだまだ残っている。感情に支配されない様に紗雪はあわてて傍らの携帯電話を手に取り時間を確認した。もう七時を回っている。いくら六月で日が長くてもこの時間じゃ薄暗くもなるはずだ。蒸し暑かった部屋の中もだいぶ涼しくなった気がする。
隣の部屋には隆介がいるはずだが一向に物音がしない。居眠りでもしているのだろうか?

婚約者である隆介は「実家暮らしは大した荷物はないから前日で大丈夫」といって自分の荷造りそっちのけで紗雪の荷造りを手伝ってくれているが紗雪は知っている。引越しはそんなに甘くは無い事を。
もちろん忠告はしたが一向に聞く耳持たない。きっと当日になってバタバタするだろうが人間は一回失敗しないと賢くならないという。なのでぜひ今回は何事も甘くみてはいけないという事を学んで頂こう。
黙々と作業していた紗雪は隣の部屋の様子を見る為に立ち上がった。長い事同じ姿勢だった紗雪の足は強張っており立ち上がるとふらふらする。
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