ゴーストハント

□境涯と饗宴3
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第三章 真実



@夢の中の彼




 暗い旧校舎の中を、卯月は歩いていた。静まりかえった建物は、彼女の他に人の存在を感じさせない。
 みんなはどうしたのだろう。まだ調査の途中だったはずだ。

 ガタンッ。

 ハッと卯月は振り返る。ちょうど後ろの教室から、その音がしたようだった。
 不思議と恐怖感はなく、じっと卯月は立っている。
 待っている、といってもよかった。

 誰を?

 開きっぱなしのドアを見つめていると、すっと手が戸口の縁に。次に人影が。

 黒田さん。

 少女は足音もたてず、卯月に背を向け、廊下を歩いていく。
 その後を追い掛けようと一歩踏み出した時、卯月は腕をつかまれた。

 なに?

 自分の腕を掴む、白いその手。代わり映えのない、黒い衣服。
 視線を上げると、やはりと思う。

 ナル?

 暗闇から浮き出るような、白い秀麗な顔が卯月を見ていた。
「どうしたの?」
 彼の顔には、なんの表情もなかった。
 だが、いつもの冷たい無表情とは少し違っていて、卯月も困惑する。
 ナルは何か言いたそうに、その瞳を動かした。
「……あ、れ?」
 一階に続く階段から、黒田女史が現れたのだ。まさに今、昇ってきたかのように。
 しかし彼女は先程、二階の突き当たりになる方角へと、歩いて行ったはずだ。あの先に階段はない。
 黒田女史は、卯月もナルも見えていないかのように、俯き加減で歩き回る。
「ナル、いったいこれ……」

 卯月。

 ナルの深い闇色の瞳に、卯月は言葉を飲み込んだ。

 そのうち、説明する。
 だから、少し待って。

 何を?聞こうとしたが、声が出なかった。まるで、言葉を忘れてしまったかのように。

 でも、気をつけて。ここは危険だから。

 そしてふと綺麗な顔を曇らせた。不安ごとでもあるかのように、瞳をそよがせる。

 みんなにも伝えて。いいね?

「……うん」
 卯月は頷いたが、奇妙な感じをそこで初めてはっきり覚った。
 変なの。
 いいね?なんて、ナルが言うなんて……。
 だってあいつなら、迷わず命令口調でしょ?
 あれ?
 ていうか、これ………。




 
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