□肝胆あい照らすまで
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流れ星、願いを込めたら君に伝わるの。




肝胆あい照らすまで




天井は床にベッタリだ。

割れた外壁、崩れたステンドグラス、
亀裂が入った十字架。
廃墟マニアが泣いて喜ぶ教会で、偶然に再開した。

挨拶より先に、棒立ちになってたことを笑って、 俺はジェットをからかった。

「ちょっと浪漫感じちゃってんだろ?」

俺の周りには感傷的になりやすい奴が多いね。 プイっとすぐ視線を反らせたジェットは、久しぶりだというのに、 随分な御挨拶だ。
すぐエクストリームギアに乗って勝負をしかけ てくる。

「俺が勝ったらお前のもってるカオスエメラル ドをよこせ」

「また集めてるのか?なんに使うんだよ」

「うるさいなんでもいい、いいから勝負だ」

「ハハァーン照れてるんだな?」

「だ、だれが!!」

「コミュニケーションが不器用なのはお前に始まったことじゃないんでね、いいぜ勝負してや るよ」

ちょうど退屈してた所だしな、と。 ボードに足を乗せた。
ふわりと浮かべばすぐに並行して走り出して。

お前はこっちを睨みつけた。
俺はそれに微笑みで返す。

だって、コースを決めるのだって、走りながらなんだよ。

「どこまでデートする?ジェット」

「バカ!勝負だ!」

「なに赤くなってんだ、マジになるなよ」

「いいからその浮ついた笑みをこっちに向ける な!」

廃墟の街を通り過ぎていく。
茎をうんと伸ばしたタンポポの綿毛は風圧で、最高飛距離を更新中だ。
浮き石を渡るよう俺は綿毛を飛ばしながら進んだ。
スピードがのると気持ちよくなって、時々回転 を加える。

「Whoo hoo!!It's nice to feel the cool breeze!」

障害物が崩れてしまっているので、一直線に走っている。
時々、ギアのさきっぽがゴッツンコして、くっついたり離れたりしながらお互い前を譲らない。

「ジェット!ゴールをそろそろ決めようぜ」

「ッハ。突きあたれば自然にゴールだろーが」

「uh-hun,なるほど」

立ち入り禁止の看板を蹴飛ばした先には、 二重になった金網が空に伸びてるのが、すぐ見えた。

ぐん、と胸ひとつ前にでたジェットをすぐ抜いてやるつもりだったのに。

一際背の高い綿毛をみつけてしまって、俺は勝負よりゲームを優先した。 風で煽って、吹くみたいに遠くへ飛ばす。

Good!一歩遅れただけで背中を舐めさせるの、さすがだね!

金網の向こうから、こっちへと顔を向きなおして、振り返ったジェットを見る。

「Oh−,Not my day」

「なにやってんだお前は」

「たまにはジェットに花を持たせてやろうと思ってね」

「勝負は勝負だ。エメラルドは頂くぞ?」

「それなんだけど、なんでお前俺が持ってるかまず聞かないんだ?」

「・・・・・・・ああ?」

両手をひらひら振って、ぐるっと一回りした。
ピストルを突きつけられたギャングみたいに丸腰だってことを示す。

「残念だったな、はは」

無い物は奪えない。唖然としたジェットを見て、俺はウィンクするともう一度ギアに乗った。

さあ、今日の所は帰ろうか、と思ったら。
手袋が金網に引っ掛かった?

いや、ジェットが布地を摘まんでいる。

「What?」

「・・・・・・負けたくせになんにもお咎めなしは、調子が良すぎるぞ」

「エメラルドなら持ってないって言ったろ?」

「なら代償をよこせ」

「?何が望みだい?俺が持ってるものならなんでもやるけど」

首を傾げていると、ジェットはじっと俺の顔を見ている。
なにか言いたい事があれば言えばいいのに、ちょっと迷ったのか、止めてしまった。

「ジェット?」

「・・・・・・・貸しにしとく」

「は?」

「夜、貰いにいく」

そう言って俺から手を離すとすぐどこかへ行ってしまった。
俺はポツン、と、金網を横滑りして飛び出してしまうのを見送って。

「・・・・・・・・なんだそりゃ・・・」

次の風を待った。

どこに行くかなんて、俺でもわからない。だけど、何故かジェットとはそれでも度々再開した。

ふんぞり返ったようなえらそうな態度に、生意気な目。 でかい声。俺は会うたびなぜか、クスクス笑う。

「Hey鼠小僧!」

「ネズミはお前だ!!」

「欲しい物は見つかったかい?」

「〜・・・欲しいものだらけだ」

「相変わらずギラついてるね。結構!」

隣に行って肩を抱くと、オーバーに嫌がって俺を振り払う。「なんのつもりだ!」なんてけたたましい声で唇を尖らせるもんだから、俺はさらに面白くなってしまった。

すぐマジになるなぁ、コイツも。

「今日はデートに誘わないのか?」

「そういつも付き合ってられるか」

「勝負だって言われて付き合ってるのは俺の方 なんだけどね」

「うるさい!離れろソニックザヘッジホッ グ!」

「フルネームかよw」

パリーン、と、いきなりガラスの砕ける音が真上でして、 俺らは空を仰いだ。

ウェーブだ。

そのまま全力疾走で壁を駆け下りて、走っていくのに合わせて、ジェットもギアを噴かせている。

「なぁんだもう他の奴と遊んでんのか」

「仕事だバカ。いい加減俺様に付きまとう な!」

「付きまとうだぁ?俺の行く先々で待ちかまえてんのはジェットだろ?」

「じゃあなんでついてくるんだっ?!」

「面白そうだから」

「っく、この・・・っ」

最初にライバル視して、勝手に追いかけまわしたのはお前のくせに。
ずいぶんよそよそしくなったもんだ。

なにをしたか理由も知らない俺は、ただ隣を走っているだけなのに。後ろから追ってきたパトカーは、もう俺を助っ人だと勘違いしてるみたいだ。

サイレンのでかい音と急ブレーキが響く中、今度は生きた街の中を走っている。

「ジェット様!」

「いいからお前は先に行け!」

ウェーブを先に行かせて、自分が後ろを巻こうと思ったのか、 目立つ大通りの方へ向かった。
そのうちにウェーブは狭い路地をこっそりと向こうへ走っていった。

俺はもちろんジェットの方をつける。 抜きつ抜かれつを楽しんでいる所だ。

「シャドウが出てくる前に二人きりになろうぜ、なあ?」

「ま、またそういう言い方を・・・っ」

一瞬ギアを降りて俺はジェットの手をとった。 音速で駆けて、公園の手すりを滑り降りる。 目を丸くしたお前を振りまわすように連れて、 地下道へ降りて走り抜ける。 適当な所でまた地上に上がると、もう。

ここは違う街。

「ふー、もう追ってはこれないだろ」

「てててて手を離せ!!」

「Ouch!・・・っなぁにも叩かなくてもいいだろ?!」

鼻を鳴らしてあっちを向いたジェット。 「お礼は?」と聞くと「誰がいうか!」と返された。 ツレナイ奴だ。

俺はジェットに顔を寄せる。夕焼けが頬を染めている。

「待ってるのに」

俺が言うと、ジェットは何故かビクンと肩を大きく震わせて、 こっちをでかい目で見つめた。

「なななななにを」

「?uh?なんか夜に取りに来るっていってただろ?」

「・・・・・・・・そ、それは」

「何慌ててんだよ、キスでも待ってると思ったか?」

「ばばばばばか」

夕焼けじゃないんだと、気がついた。 ちょっとからかっただけですぐ顔を赤くする。ジェットは本当に面白い。

もういっぽ距離を詰めて、鼻の先で顔を突いた。ジェットは大慌てで飛びのく。

「誰にでもそういうことする奴、俺は嫌いだ!!」

「ムキになるなよ」

「大嫌いだ!」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・本当だぞ」

ちょっと顔をしかめて見せた。 もちろん傷ついた風を装っただけだ。

その後わざとらしく「Oh,それは残念」なんて落胆ポーズ。 ジェットには背中を向けて含み笑いをこらえた。

ダメだ。震える。おかしくって。
でもこうやって背中が震えてるの、泣いてるように見えるんだろうな、と思うとさらに面白い。

ジェットはどうしたらいいのか困ってるみたいだ。
小さい声で俺の名前を呼ぶ。

俺は聞こえないふりをする。

「ジェットに嫌われたと思ったら、立ち直れない」

ぐっと唇を噛んで、笑いをこらえながら言った。
震える声が自分でも思った以上に上出来だった。
誰にでもこんなことするわけないじゃないか、と。

まぁそれは本当か。 ここまでからかいがいのある相手は他にいないわけだしね。

「ソニック・・・・・」

でもお前まで泣きそうな声になったから、いい加減、許してやらないとマズイか。

「too bad,俺、本当はジェットのことが好きだったのに」

・・・と思いながら、俺は何を言ってるんだ。ダメだ笑う。もうムリ。
言ってる自分まで面白くなってきた。

夕暮れの街に影が細く伸びた雰囲気。 ジェットどんな顔してるのかと思いきって振り返ると、なぜか真顔になっていて、面喰った。

「ハハハ、冗談だよ・・・」

何故か俺はその顔に大人びた印象を感じてしまって、口ごもった。
三人組の末っ子みたいにガキンチョのくせに。

俺をじっと見る。
なぜか動けなくなって、俺は口の端を戻すと、結ぶ。

「マジになるなよ、怒ったのか?」

真顔のまま、こっちに距離を詰めた。 俺は動かず、ジェットを見つめ返した。

なに?

「・・・・・・・だから嫌いなんだよ、お前」

唇を噛まれた。


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