短編

□遺作
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ある日森の中、君に出会った。
花が咲かないこの道、君に出会った。








「見ますか?」


「ハァ?」


「人間が人間を作るの、見ますか?」


「人間が人間を作る?何かの宗教なワケ?」


「宗教、じゃなくて、美術、です」


「美術?」


「果たして違うパーツでどれだけ美しい作品が作れるか、限界に挑むんです」




暗い森、辺りは夕暮れ。
手元は薄暗いのに器用に作業を進める少女は慣れているようだ。
少年は背後から見つめる。
さくさく進む作業。
背中側の皮膚を敷き、肉を積む。
骨を丁寧に並べ、組み立てる。





「西くん、だっけ。作りますか?」


「別に作りたくねェ」


「割と楽しいのに。大小数え切れないパーツを組み合わせるの、いいよ」


「そんな細かい作業出来ねェッて」


「そこの脾臓、取って」


「ホラよ」


「誰も投げろとは」


「取ってやッたんだからいいだろ」


「それは、感謝します」







臓器を一つ、一つパズルのように当て嵌め一息。
テニスコート一面分の長さのある腸をぐねぐねと折り込み、僅かに膨らみのある子宮を添える。







「オイ、まさかそれ」


「中に居ます」


「ハッ…よく出来たな」


「作品の材料集めに躊躇いは、無用ですから」


「あッそ」







段々と形になり、それらしくなった所で少女は振り向く。




「そういえば、猫は作り甲斐ありますか?」


「多分、ねェんじゃねーの?」


「そしたら、西くんだっけ。君に持って来て貰いたかったのに、残念」





少女は作品に向き直り、上部に乳房、下部に男性器を縫い合わせ唸る。
納得したのかポリタンクの蓋を開け、輸血用のバッグに血液を適量入れ、作品の大動脈付近に針を刺し流し込んだ。







「そういえば、人間を殺した事は?」


「ある」


「楽しいですか?」


「楽しい。でも、殺される瞬間を見る方が楽しい」


「それは一度見てみたい」


「アンタも死ねば見れる」


「死ぬのはまだ遠慮したいです。たくさん作りたいモノがある」




残り100を切った所で少女は血液を継ぎ足し、塗装に使う刷毛を手に持った。
適当に樹木の皮をめくり血液でたっぷり濡れた刷毛で何かを描く。






「何ソレ」


「サイン。芸術家はみんな書きますよ」


「口?うわキッモ」


「笑った口っていいじゃないですか。お茶目で好きなんです」


「これどう見ても血ィ吐いてるようにしか見えねーけど」


「ああ!また付けすぎた!」





サインの出来映えに肩を落とし、散らばる道具を片付け始める。
あれもこれも袋に詰め込み作品だけが残された。





「今回は割と駄作に近いかな」


「俺には駄作かどうかわかんねェ」


「でも、割と気に入ってます」


「へェ…」


「案外、都会のど真ん中で作った割に、気に入った」


「明日辺り誰かに見つかるだろうな」


「明日は展覧会ですね。これ一つに随分と時間を費やしたから、いくつも作れないけど評価はされます」


「なぁ、知ッてるか?芸術家ッて殆どが死んでから評価されるンだッて」


「なるほど、わたしに死ね、と」


「まあそうだな。此処で死ねば評価されるだろ?」


「作品の目の前で死ねるのは本望です」


「あッそ」





少年は見た事もないゴツゴツとした銃を取り出し引き金を引いた。
数秒して少女の頭部が弾け脳髄を飛散させながら倒れ臥す。
血潮や肉片を浴びた少年は気味の悪い笑みを浮かべ、作品と少女の遺体を鑑賞し始めた。










晩年の大作には及ばず
(作者の名前は、ない)








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