短編

□そんげん
1ページ/1ページ



*「あんらく」の続き





「餓死が一番痛くないよね」



そう言った彼女は翌日、学校に来なかった。
まあ、クラスで割と地味で存在感が無い。
誰も彼女が来なくとも気にもせず頭の悪い会話と愚行を繰り返している。







(今日は、どれくらい痩せたンだろうな)




放課後。
真っ直ぐ家に帰らずとある廃屋へ足を運ぶ。
街中によくある、人の気配が無い馬鹿でかい住居。
皹の入った外壁に辛うじてぶら下がっている門を潜り、人が一人通れる壁の穴から侵入。
埃っぽい屋内。
床下の基礎が剥き出しの応接間らしき部屋を出て、多分寝室。





「―………」



か細い呼吸音。
天井を見つめる虚ろな瞳。
腕は皮膚の下がすぐ骨という訳で無く、僅かな筋肉と脂肪が残っている。
足は折れてしまいそうな木の枝のように頼りない。
まだ、生きている。





「よォ」



一言だけ、挨拶を発すると虚ろな瞳が嬉しそうに揺らぐ。
会話をする体力と機能は既に失っている。
彼女と意志の疎通を図るには瞳を見ればいいのだが、長時間はキツい。
何を伝えようとしているかを汲み取るのに神経と集中力、体力を消費する。
出来たとしても一時間ちょっとが限界。






(これ、安楽死ッて言うよりただの自殺だろ)





この廃屋に足繁く通い始めてから思った。
安楽死というのは病の治療が苦しくなった人間が行うもので、健康な人間が行っていいものではない。
なのにコイツは楽に死ぬ手段を安楽死と呼んで実行している。
そこらの愚民と変わらない考えで、正直見下してる。
けど、死に対して向き合った姿勢だけは称賛してやろう。

死にたがる理由は聞かなかった。
死体が見られるなら理由はどうでもいい。
干からびた死体でも欲情出来るか気になる所だ。
ああ、俺みたいなのに死んだ後オカズにされるとは夢にも思ってないだろう。
これじゃあ人間としての尊厳がない。
いや、元々彼女は尊厳のある死を望んでいたか。

楽に楽に死にたい辺りそんな深い部分は頭に無かっただろうな。






「―……、…。…………」





ゆっくりと瞳が閉じられ、か細い呼吸音が途絶えた。
砂のように水分のない手首に指を添えて脈拍を確認。
死んだ、か。

今日の所は帰ることにした。
また、明日見に来よう。











♂♀











「―…マジかよ」




翌日。
例の廃屋へ来ると重機が敷地内に一台。
錆びた腕で廃屋を抉る。
ちょっと待てよ。
中には彼女が。
彼女が腐りかけて俺を待っているんだ。

中へ飛び込もうとすると作業員に止められる。
離せよ、彼女がいるんだ。
ぐしゃりと壁が潰れて、屋根が脆く崩れ落ちて砂塵が舞う。







( さ い あ く だ ! )





彼女の死体が瓦礫に埋もれてしまった。
カラカラに干からびた死体が、もっと渇くのを見たかった。
人間の死体が白骨するまでの九つの変化を確かめたかった。

ああ、尊厳もクソもあったもんじゃない。
あんな場所で、有意義に死のうとした彼女を再び称賛。
恐らく、俺が間際まで居た事で人間として尊厳を保って死ねた、そう思った。


“死”を他人に看取られて初めて人間としての尊厳を保てる。
そう理解したのは作業員が彼女の死体を見つけてからだった。



瓦礫の山が雪崩を起こす。
最期に彼女はか細く吐息を吐いていた。
喋る体力と機能は皆無。
何を伝えたかったかは、瞳の動きで分かった。
あんな状態でよく言えたものだ。

近くなるサイレンの音から逃げ出すように俺は廃屋だった更地を後にした。










それには価値がありました
(僕たちが見出だした、それ)






長すぎました。あと、なんか西くん偽物ぽくてすいません


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ