続・ふたりよがり
□4(鬼龍院視点)
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言わなくても、わかる。
顔を見ていれば、彼女が何か悩んでいることぐらい、俺には分かる。
2月も下旬に入り、俺は相変わらず忙しかった。
「おはようございまーす」
朝、事務所で一人で作業をしていると、豊が作業室にやってきた。
「おはよう。」
豊は寝ぼけ眼で帽子を取り、俺の目の前の椅子に座った。
「どう?最近」
「え?」
彼はスマホを取り出してツイッターを操作しながら俺に話しかけた。
「キリコちゃんは。」
彼女の名前を出されて、俺の頭の中にあのか細い腕についた大きな痣が浮かんだ。
「ああ・・・うん。大丈夫、順調。」
の、はず。
「ふーんそうか。そうか。それはなにより。」
メンバーには、俺が結婚する気でいること。そして婚約指輪を渡したことを言ってある。
でも、彼女が留学することは、なんだか個人的なことのように思えて(結婚の方が個人的かもしれないが、)言えなかった。
「「おはようございまーす」」
と、続けて研二と淳くんが部屋に入ってきた。
「おはよう」
今日も、俺は仕事があるのだ。
俺は、「社会人」なのだから。
そうだ。俺は、「大人」なんだから。
**
結局夜中まで作業は続き、家路についたのは日付が変わってからだった。
ガチャン・・・
ああ。今日も疲れたなあ。
でも、4月からは半年間ちょっといろいろと自由になるし、今はそのためにも頑張らないと。
「ただいまーあ・・・」
玄関を開けると、さすがに部屋の中はしーんとしていた。
「・・・・寝ちゃったか」
そりゃそうだよな。こんな夜中まで普通の人間は働かないもんな。
そーっと靴を脱ぎ、寝室に向かう。
キィ、と寝室のドアを開け、明かりをつける。
「・・・・」
キリコちゃんは、スースーと寝息を立てながら、布団に入り横向きで眠っている。
・・・・かわいいなあ。俺の彼女。
そのあどけない寝顔を見ていると、心の中が浄化されるような気がした。
ただただ幸せだった。
彼女は、左を向いて寝るのが癖だ。そのせいか、朝起きるといつも左肩が痛いらしく、ぐるぐると両腕を回してストレッチをする。
以前、
俺は、そんな彼女に「上向いて寝なよ」というのに、「寝るときは上向いてる。でも寝てる間に左むいちゃうの。無意識だから直しようがないもん。」とちょっと冷たく言われた。
なんとなくその言い方に腹が立った俺は、「じゃあ好きにしなよ」とぶっきらぼうに言ってしまって、ちょっとだけ喧嘩した。
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