続・ふたりよがり
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四月
私は大学が始まって、翔さんは半年間の休暇に入った。
彼は私の留学を応援してくれるといい、改めて「頑張ってね。」と言われた。
私はそのことがひどくうれしかった。
腕の痣も薄くなり、痛みもすっかりなくなっていた。
それなのに、私はあれ以来翔さんがちょっと手を伸ばしてくるたびにびくついてしまう。
傷はもう治っているのにそれだけが、唯一それだけが治らないまま引きずっている。
彼はきっと気づいていないだろう。
ただ私が、なにか彼に恐怖心を抱いているのかもしれない。それは私自身の問題であって、翔さんにはなんの非もない。私が直せばいいのに・・・・
彼に本当のことを言って、傷つけてしまいたくはない。
「いってきまーす」
玄関で靴を履きながら言うと、翔さんが洗面所からはぶらしを口にくわえたままひょこっと顔を出した。
「あ〜・・ひってらっはーい〜・・・」
彼は寝ぼけ眼のままひらひらとわたしに手を振る。
寝癖ついてる。
「あは。いってきます」
私は笑って彼に手を振り、部屋を出た。
マンションを出て、駅までの道のりを歩く。
ここも、あと何回通ることができるだろう。
そんなことを考えながら日々学校へ向かう。
四年生になった今は、ほとんど授業がなく、バイトと勉強を繰り返す毎日だ。
だいたい平日は午前中にアルバイトをして、そのあと私は大学へ行って夕方まで図書館で勉強をした。5限にたまに英語の講座がはいり、家に帰るのはいつも6時ごろだった。
翔さんと、話し合った結果だった。
彼は、「残された時間がちょっとだからと言って、ずっと二人で、毎日べったりとしてればいいってもんじゃないよね。」
とにこやかに言ってくれた。
「キリコちゃんはキリコちゃんなりに大切に自分の時間を過ごして。俺も俺で、いろんなものを見たり、聞いたりして、充電する時期だからさ。」
そう言った彼の目には、なんの嘘もなかった。
特別な日々が過ごしたいわけじゃない。
いつもどおりでいい。ただ週末に、ふたりでゆっくりとした時間が過ごせればそれでいい。それが私たちの答えだった。
変わったことと言えば、家に帰ると翔さんがいつも「おかえり」と言ってくれることだけだ。
その一言が、私の胸をいつもいっぱいにする。
たった一言なのに、あの扉を開けて、真っ先に彼が笑ってくれることが嬉しくてたまらないのだ。
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