短編
□僕の好きな人。出会い編
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あれは6月の、ちょうど梅雨に入ったばかりの頃。
帰ろうと学校の正面玄関から出たら、天気予報通り外は土砂降りで。
「…やんなっちゃうね、全く」
どんよりとした雨雲を見上げてそう呟くと、僕は傘を広げた。
僕はあまり雨が好きじゃない。
見るからに重苦しい天気は、なんとなく気が滅入ってしまうからだ。
「それにしても凄い雨…」
学校から大分遠くなってから、僕はいつも脇を通る河原に何気なく視線をやった。
水位上がってるんだろうな、なんて、そんな軽い気持ちで。
ところが。
「え……えぇ?」
僕は一瞬目を疑った。
今にも水に漬かりそうな位置に、誰かが傘もささずに佇んでいたのだ。
背格好からして男だろう。
関わりたくない。
そんな考えが頭を過ぎる。
仮に彼が自殺志願者だとしたら、それは彼の問題だし止めに入った所で余計なお世話だろう。
そのまま去ろうとして、いつも通る通学路で自殺者が出るのは嫌だなと思い直す。
何より仮に事が起きたとして、最後に姿を見たのが僕だというのは、正直あまり嬉しくない。
そんな風にあれこれ考えているうちに、気がついたら傘を差し出していた。